不織布の帯電状態
はじめに
新型コロナウィルス感染防止でマスク等に利用する不織布フィルタの使用が活発となる中、捕集効率を高めるためにより高性能なフィルタのニーズが高まっており、その一つに不織布をエレクトレット(電石)化して静電気力により捕集効率の向上させたエレクトレットフィルタがあります。このフィルタの性能を左右するのは不織布中に形成された電荷トラップの性質であるため、材料中のトラップの挙動を高感度に評価できる熱刺激電流(Thermally Stimulated Current, TSC)測定にてポリプロピレン(PP)不織布の帯電状態を評価しました。
測定・解析例
図1にエレクトレットのTSC測定時に実施されることが多いコロナ荷電による試料の荷電方法及び荷電した試料のTSC評価の模式図を示しました。ニードル電極に高電圧を印加してコロナ荷電を実施し、その後TSC装置にて電荷トラップを評価します。TSC測定は上下の電極が一定距離のair-gapを設けた開回路にて測定しました。開回路TSCとすることで内部に発生する平均電界を活用して電荷を一方向へと運ぶ過程のTSC測定が可能となります。
コロナ荷電によって負帯電したPP不織布を昇温速度5 ℃/minにて開回路TSCを測定した結果を図2に示しました。コロナ荷電した試料はTSCの増加が確認されましたが、していない試料では増加はなく帯電の有無が確認できます。TSCピーク、つまり脱トラップが起きる温度は高分子の分子運動との相関があり,PPの結晶緩和が観測される温度域(60 ℃付近及び150 ℃)での脱トラップによるTSCの増加が認められました。またこの温度域から帯電を安定に保持できる温度を推測することが可能で、今回のPP不織布は100℃以上で脱トラップする電荷トラップが多いことから室温での利用においては十分帯電状態を保ち、エレクトレットフィルタとして機能すると思われます。
図1 (a)コロナ荷電と(b)開回路TSCの模式図
図2 PP不織布のTSC
推奨装置・推奨ソフトウェア
- TS-POLAR、TS-FETT