PETのケミカルリサイクル その1
はじめに
プラスチック廃棄物削減が叫ばれる中で、PETボトルに代表されるPET素材のリサイクルが注目されています。PET素材をそのままリサイクルするメカニカルリサイクルに加えて、着色や汚染されたPET廃棄物を化学反応により原料もしくは有用な化成品に変換するケミカルリサイクルも必要不可欠な技術です。熱分解によるPETのケミカルリサイクルでは安息香酸をはじめ、様々な高沸点ガスが発生します。高沸点のガスは配管に付着しやすく腐食の原因となるため、ベンゼンなど低沸点のガスへ変換することが望まれます。ここではPETに水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を加えて加熱した際の反応生成物の変化をTG-MSにて調べました。
測定・解析例
PETシート片とCa(OH)2の混合試料を不活性のHe雰囲気にて室温~800℃の範囲で20℃/minにて昇温しました。MSのイオン化には電子イオン化(EI)を使用しました。TG及びMSシグナルの温度プロファイルを図1に示します。300~500℃にてH2Oが、400℃を超えたあたりからCO2及びベンゼンがそれぞれ発生していることが分かりました。一方で安息香酸などの高沸点ガスのシグナルは通常のPETの熱分解と比べて著しく減少しました(詳細はアプリバイト「PETのケミカルリサイクル その2」を参照)。
熊谷らによって本反応は次のように進むと報告されています。まずCa(OH)2の脱水により水蒸気を生成し、生成した水蒸気によりPETが加水分解されてテレフタル酸が生成します。このテレフタル酸は酸化カルシウム(CaO)と反応してテレフタル酸カルシウムを形成し、さらに加熱されることで分解して炭酸カルシウム(CaCO3)とベンゼン、CO2が生成します。
図1 PET+Ca(OH)2のTG-MS測定結果
参考文献:S. Kumagai et. al., Journal of the Japan Petroleum Institute, 59(6) (2016) 243-253.
推奨装置・推奨ソフトウェア
- TG-DTA8122およびMASS-IF、GC/MS
- Thermo plus EVO2ソフトウェア、3次元解析ソフトウェア