TG-MSによるABS 分解の確認
はじめに
ABS樹脂はアクリロニトリル、ブタジエン及びスチレンの3種を重合させた熱可塑性樹脂です。非常に汎用性の高いプラスチック材料で、家電、IT製品の外装などの様々な工業製品に応用され、また近年では3Dプリンターの材料としても使用されています。ここではABS樹脂を加熱した際の分解挙動をTG-MSにて調べました。
測定・解析例
ABSの粉末をHe雰囲気で室温~600℃の範囲で昇温しました。MSのイオン化には光イオン化(PI)もしくは電子イオン化(EI)を使用しました。
図1 ABS分解時のマススペクトル (a) EI、 (b) PI
EIとPIで測定したABS分解時のマススペクトルを図1に示します。EIではガス分子がそのままイオン化した分子イオンの他に分子が開裂したフラグメントイオンが発生するため、ピークが多数確認されます。一方、ソフトイオン化のPIは分子イオンが発生しやすく、今回のABS分解時にはスチレン(m/z104)の非常に強いピークとスチレン-アセトニトリル3量体(m/z261)などが確認されました。
熱安定性を議論する際に反応の活性化エネルギーを使うことがあります。今回は昇温速度を変化させて測定を実施し、小沢法から活性化エネルギーを算出しました。MSデータを使うことで個別の生成物の反応率を計算できるため、個々のガス発生に関する反応の活性化エネルギーを算出することができます。特にPIは分子イオンを検出しやすく、反応を発生ガス毎に分離できるため、非常に有効です。図2に各昇温速度のスチレン(m/z104)発生の温度プロファイルを、図3にスチレン発生に関する各反応率での活性化エネルギーをそれぞれ示しました。活性化エネルギーが各反応率でほぼ一定であることから、スチレン発生が単一過程での反応でその活性化エネルギーが約216kJ/molであることがわかりました。
図2 各昇温速度のスチレンシグナル(m/z104、PI)の温度プロファイル
図3 スチレン発生に関するE-Cプロット(小沢法)
推奨装置・推奨ソフトウェア
- Thermo Mass Photo、TG-DTA8122および1ch MS-IF、GC/MS
- Thermo plus EVO2ソフトウェア、3次元解析ソフトウェア