アセトアミノフェンのダイナミックDSC測定
はじめに
ダイナミックDSC(温度変調DSC)は等速昇降温に温度変調成分である正弦波を加えた温度制御を行いながら測定します。ダイナミックDSCでは測定結果を解析することでDSCtotal、DSCrev.、DSCnon-rev.曲線といった3種類のDSC曲線が得られ、また試料の比熱容量をプロットすることも可能です。本稿では非晶質のアセトアミノフェンについてダイナミックDSC測定を行い試料の相転移温度と相転移前後における比熱容量の変化について検討しました。
*ダイナミックDSCに関する詳細な解説は「B-TA1021 ポリエチレンテレフタレートのダイナミックDSC測定」をご参考ください。
測定・解析例
非晶質アセトアミノフェンを平均昇温速度3℃/min、振幅1℃、 周期30sでダイナミックDSC測定を行いました。
図1はダイナミックDSCの測定結果です。この結果を数学的な処理によって分離を行った結果が図2のダイナミックDSC解析結果となり、青色の曲線がDSCtotal、緑色の曲線がDSCrev.、 赤色の曲線がDSCnon-rev.となります。
図1. ダイナミックDSC測定結果
図2. ダイナミックDSC解析結果
DSCtotalはダイナミックDSC出力値の1周期毎の平均値をプロットしており、等速昇温で測定した結果に相当する結果になります。20℃付近にエンタルピー緩和を伴ったガラス転移によるベースラインのシフト、75℃に結晶化による発熱ピーク、130℃に結晶転移による発熱ピーク、そして160℃に融解による吸熱ピークがみられます。
次にDSCrev.では可逆成分(試料の熱容量に関する成分)による変化が現れ、24℃にガラス転移によるベースラインのシフトがみられます。また、75℃で結晶化によって比熱容量が変化する為、発熱ピーク前後でベースラインがシフトしていることがわかります。同じように融解後は比熱容量が大きくなる為、ベースラインは融解前に比べてシフトしています。。
DSCnon-rev.では不可逆成分による変化が現れ、25℃にエンタルピー緩和による吸熱ピーク、75℃に結晶化、130℃に結晶転移による発熱ピークがみられます。
図3にDSCtotalと比熱容量曲線を示します。ダイナミックDSC解析結果におけるDSCrev.は試料の熱容量の変化を表しているため、試料の比熱容量に変換してプロットすることができます。図3では黒色の曲線が試料の比熱容量曲線となります。DSCtotalに見られるガラス転移や状態変化を伴う相転移の前後で比熱容量曲線はジャンプしていることがわかり、試料の状態変化によって比熱容量は大きく変化することがわかります。なお、比熱容量曲線を解析することで任意の温度の比熱容量値を解析することや温度に対する比熱容量値を作表することができます。
図3. DSCtotal曲線と比熱容量曲線
推奨装置・推奨ソフトウェア
- Thermo plus EVO2 DSCvesta
- ダイナミックDSCソフトウェア