アセトアミノフェンの熱挙動
はじめに
医薬品の熱挙動の把握にはDSCがよく使われます。特に、非晶質、結晶質の判断や多形の存在など、DSC結果を読み解くことで医薬品の状態把握を行うことができます。しかしながら未知の物質の場合、DSCの結果だけで反応を判断するには確証が得られないケースもあります。このような際にX線回折結果はDSC結果に現れる反応を正しく判断する手助けとなります。今回鎮痛剤として利用されているアセトアミノフェンについてDSC測定を行い、得られたDSC結果をXRD結果と併せて考察しました。
測定・解析例
アセトアミノフェンのDSC測定結果を図1に示します。DSC測定は試料量5mgにて行い、180℃まで昇温(1st heat)後-20℃まで降温しました。その後180℃まで再昇温(2nd heat)しました。
DSC測定結果では1st heatにおいて170℃に吸熱ピークが見られ、降温過程では27℃にガラス転移によるベースラインのシフトのみが見られます。2nd heatでは21℃にガラス転移によるベースラインのシフトが見られた後、78℃、125℃と2つの発熱ピークが見られ、その後158℃に吸熱ピークが見られます。このDSC結果から1st heatでは170℃で融解し、降温によりガラス状態となり、2nd heatingで結晶化し158℃で融解していることが考えられます。この時1st heatの融解温度と2nd heatの融解温度が異なるため、初期の結晶形と2nd heatの融解前の結晶形は異なることがわかり、アセトアミノフェンは多形を持つことがわかります。この時、2nd heatingで見られる2つの発熱ピークについて、78℃の発熱ピークは結晶化であることは推測されますが、125℃の発熱ピークは未結晶部分の結晶化と結晶部分の結晶転移の可能性が考えられます。
DSC測定結果に見られる吸発熱ピークについて確認するために、①測定前の試料、②2nd heatにおいて78℃の発熱ピーク後に取り出した試料、③同様に158℃の発熱ピーク後に取り出した試料についてX線回折測定を行いました。図2に各熱処理後のX線回折測定結果を示します。X線回折測定結果では①の状態はⅠ型、③の状態はⅡ型のプロファイルが得られており、DSC測定結果の融解ピーク温度が異なっていた結果から判断された通り、結晶形が異なっていることがわかります。これに対し、②ではⅡ型とⅢ型が混在しているプロファイルが得られており、125℃発熱ピークはⅢ型部分がⅡ型に結晶転移したピークであることが推測されます。
このようにXRD測定にて構造を確認することでDSCのピーク(反応)を判断する手助けとなり、DSC結果から医薬品の熱挙動を正確に読み取ることが可能となります。
図1 アセトアミノフェンのDSC測定結果
図2 DSCにて熱処理後のXRD結果
推奨装置・推奨ソフトウェア
- DSCvesta(電気冷却システム)
- Thermo plus EVO2ソフトウェア
- 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + 高分解能・高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250