医薬品のダイナミックDSC測定
はじめに
医薬品における非晶質の有無は効能や物性に大きな影響を及ぼすため、非晶質の存在確認は非常に重要となります。非晶質物質はガラス転移を持つため、DSCによってガラス転移を測定することで非晶質の存在を確認できます。ここでは、非晶質と結晶質のテルフェナジンを1:1の割合で混合した試料をDSCにて等速昇温測定とダイナミックDSC測定を行い、非晶質部分のガラス転移について比較を行いました。
測定・解析例
テルフェナジンの非晶質と結晶質の粉体を重量比1:1で混合した試料を用いて測定を行いました。
図1.に等速昇温DSC測定結果を示します。
図1.等速昇温DSC測定結果(試料量:20mg、昇温速度:3℃/min、N2雰囲気)
等速昇温結果では47℃と62℃に吸熱ピーク、77℃,113℃に発熱ピークがみられます。非晶質が混在しているためガラス転移は存在するはずですが、ベースラインのシフトは確認できませんでした。
次に、ダイナミックDSC測定結果からトータルDSC(DSCtotal), 可逆DSC(DSCrev.), 不可逆DSC(DSCnon-rev.)に分離した解析結果を図2に示します。
図2.ダイナミックDSC測定結果(試料量:20mg、平均昇温速度:3℃/min、周期:36s、振幅:0.43℃、N2雰囲気)
可逆成分であるDSCrev.を確認すると60℃にガラス転移による吸熱方向へのベースラインのシフトが確認できます。また、不可逆成分であるDSCnon-rev.では60℃にエンタルピー緩和による吸熱ピーク、70℃、110℃に結晶化による発熱ピークがみられており、可逆成分であるガラス転移と不可逆成分に分けられています。本試料ではガラス転移と同じ温度域で他の反応も起きるため等速昇温測定ではガラス転移を確認できませんでしたが、ダイナミックDSC測定から可逆、不可逆成分の分離を行うことでガラス転移を確認することができました。
推奨装置・推奨ソフトウェア
- Thermo plus EVO2 DSCvesta
- Thermo plus EVO2 ダイナミックDSCソフトウェア