ポリエチレンテレフタレートのダイナミックDSC測定
はじめに
従来の等速昇降温にsin波やステップといった温度変調成分を重ねた温度制御を行う温度変調DSCは、等速昇降温とは根本的に異なる昇降温を試料に与えて測定するため、得られる情報が異なります。これにより等速昇温では得られない情報が得られ、温度変調DSCで測定することで材料の新たな知見が確認できる可能性があります。
測定・解析例
温度変調DSCであるダイナミックDSCは温度変調成分にsin波を採用した温度変調DSCになります。従来の等速昇温にsin波を加えるので、図1.のような昇温過程になります。この時、平均昇温速度から最大に離れる温度差が振幅、sin波の1周期にかかる時間を周期といいます。
図1. ダイナミックDSC昇温過程
非晶質のポリエチレンテレフタレート(PET)を平均昇温速度5℃/min、振幅0.53℃、 周期40sで測定を行いました。図2はダイナミックDSCで測定をした結果になります。この結果を解析し、分離を行った結果が図3になります。青色の曲線がDSCtotal、ピンク色の曲線がDSCrev.、 赤色の曲線がDSCnon-rev.になります。
図2. 非晶質PETのダイナミックDSC測定結果
図3. 非晶質PETのダイナミックDSC解析結果
DSCtotalは等速昇温に相当する結果となり、通常のDSCで測定している結果と同じになります。70℃付近にエンタルピー緩和を伴ったガラス転移によるベースラインのシフト、150℃に結晶化による発熱ピーク、250℃に融解による吸熱ピークがみられます。これに対し、DSCrev.では、可逆成分による変化のみがみられ、70℃付近にガラス転移によるベースラインのシフト、250℃に融解による吸熱ピークがみられています。次にDSCnon-rev.では、同じ70℃にはベースラインのシフトはみられず、エンタルピー緩和による吸熱ピークのみがみられ、150℃には結晶化による発熱ピーク、250℃には融解時における再結晶化による発熱ピークがみられます。
このように、ダイナミックDSCを用いることでエンタルピー緩和の吸熱ピークとガラス転移のシフトを分離することができ、さらに、等速昇温結果においては確認できない、ポリマーの融解中の再結晶化も確認されています。
推奨装置・推奨ソフトウェア
- Thermo plus EVO2 DSCvesta
- ダイナミックDSCソフトウェア