ココア粉末の融解挙動の評価
はじめに
ココアはカカオ豆から製造されており、その安定性及び結晶性は冷却過程や保管条件に大きく依存する材料であることが知られています。DSCを測定することでココアに含まれるカカオバターの融解挙動からココアの状態を把握することができ、ココアが受けた熱履歴の影響を判断することに有効となります。今回、冷却過程及び保管時間の影響を受けたカカオバターの融解挙動をDSCにて比較しました。
測定・解析例
ココア粉末5mgをDSCにて測定を行いました。測定は0℃~50℃の温度範囲でサイクル測定を行い、昇温速度は5℃/min、冷却速度は5℃/min、2℃/min、1℃/minの3種類で行いました。また50℃まで昇温した試料を室温まで冷却し、室温にて12日間保管した試料についても5℃/minで昇温測定を行いました。冷却過程のDSC測定結果多重プロットを下図(a)に、昇温過程のDSC測定結果多重プロットを下図(b)に示します。
冷却過程では冷却速度にかかわらず凝固による発熱ピークが25℃から0℃にかけて見られます。昇温過程では融解による吸熱ピークが見られますがピークの温度域は2種類に分けられ、初期状態であるオリジナルと融解後室温にて保管した試料では25℃から40℃にかけてピークが見られ、融解後0℃まで冷却した試料では10℃から30℃にかけてピークが見られています。このことから0℃まで冷却する過程で凝固(結晶化)を起こさせた場合と、融解後、室温に保持して凝固させた場合ではカカオバターの結晶構造が異なっていることがわかります。また、0℃まで冷却したココアにおいても冷却速度の条件によってわずかに融解温度が異なっており、冷却速度が遅いほどピーク温度は高温になる傾向が見られます。
このように、ココア粉末を一旦溶かした場合、凝固させる温度条件で凝固物の温度特性が変わることがDSC結果からわかります。今回の結果では室温で溶けないココアを作るためには室温以下まで冷却して凝固させるのではなく、室温にてゆっくり凝固させる必要があることが今回のDSC測定結果からわかります。
これらの結果から、DSCは冷却過程や保管条件に大きく影響受けるカカオバターの様な食品材料の結晶構造の形成を確認する為に不可欠な分析手法となります。
サンプルはカカオプランテーションプロジェクト、ネグロスオリエンタル(フィリピン)から提供されました。
推奨装置・推奨ソフトウェア
- Thermo plus EVO2 電気冷却のDSCvesta装置
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