タンパク質の凍結融解によるダメージ評価例
はじめに
タンパク質は壊れやすいため、長期保存の際にはしばしば凍結乾燥や、-80℃での保存を行います。しかし、凍結の過程で一部のタンパク質はダメージを受け、変性や非特異的な会合体(凝集体)が形成することが知られています。X線小角散乱(SAXS)は、タンパク質溶液にX線を照射することにより得られる散乱を利用し、タンパク質の溶液中でのサイズや形状を評価する手法です。また、SAXSは会合体形成等、分子の大きさの変化にも敏感です。タンパク質構造解析用小角散乱装置BioSAXSを用いて、タンパク質の凍結のダメージによる分子サイズ変化の検証を行いました。
測定・解析例
測定試料には分子量8万程度のタンパク質を用い、液体窒素により急速凍結を行いました。凍結融解を一度行ったタンパク質溶液と、凍結を行っていない溶液を測定し、分子最大長Dmaxと慣性半径Rgを用いて分子のサイズ評価を行いました。その結果、ギニエプロットより凝集体の形成は見られなかったものの、凍結サンプルは凍結をしていないサンプルと比較して、DmaxおよびRgの値が増大していました(図1)。測定に用いたタンパク質は、凝集体形成は引き起こしていませんが、1回の凍結でも凍結によるダメージを受け、立体構造が壊れた分子が生じていると考えられます。
図1.ギニエプロット(左)およびDmax、Rg比較プロット(右)
タンパク質溶液は凍結によるダメージを受けやすいため、SAXS測定を行うときには精製後すぐのフレッシュなサンプルを用いることが重要であると考えられます。
この結果より結晶化を行うときにも、凍結融解を行うことで結晶化の成功率が下がる可能性があるため、精製後すぐのタンパク質溶液を用いることが良質な結晶を得るためのポイントとなると考えられます。また、タンパク質溶液を保存のため凍結した場合には、結晶化前に再度ゲル濾過等による精製を行うことが望ましいと考えられます。
推奨装置
- タンパク質溶液用X線小角散乱装置 BioSAXS-2000nano
- 高輝度X線発生装置 MicroMax007HFMR
- 超高輝度X線発生装置 FR-X