高圧条件下での単結晶X線構造解析
はじめに
物質の構造と状態を決める上で、圧力は温度と並んで重要なパラメーターです。特に対象物質の構造変化を“その場観測”するために、高圧セルDAC(Diamond Anvil Cell)を用いたX線回折測定が活発に行われています。DACでは、高圧力を実現するため、一組のダイヤモンドで挟まれた、~300 mm以下の試料室に測定対象物を入れなければなりません。その結果、ダイヤモンドにより減衰を受けた微量な試料からの回折線を観測することになるため、一般的には放射光が用いられています。しかし、近年の要素技術の進歩により、実験室系の装置でも数mm程度の極微小単結晶から構造が得られるようになったため、DACによる高圧下でのX線回折測定が実験室系で可能となっています。
測定・解析例
図1に示すように、DAC由来の強い回折線と化合物由来の回折線が同時に観測されます。ダイナミックレンジの大きな検出器を用いることにより、強い回折線と弱い回折線が共存しても、良好な回折データが得られます。
図1 高圧条件下での回折イメージ(a : φ = 0˚ , b : φ = 20˚)
常圧および高圧下での格子定数を表1にまとめました。a, b, c軸は、全て常圧下のときよりも短くなっていることが分かります。β角の値も大きくなり、それに伴い体積も約11%も減少しています。常圧・高圧での構造解析の結果を図2に示します。異なる圧力下における分子の立体構造の変化の様子が分かります。
表1 常圧下、高圧下での格子定数
Entries | 0 GPa | 2.8 GPa |
Space group | P21/n | |
a (Å) | 11.4016(5) | 11.182(7) |
b (Å) | 12.0000(4) | 11.741(8) |
c (Å) | 12.8329(5) | 11.941(7) |
β (°) | 93.455(7) | 95.487(11) |
V (Å3) | 1752.59(11) | 1560.5(17) |
図2 パッキングの変化 0 GPa(青色)、2.8 GPa(赤色)
参考文献: K. Nagura, S. Saito, H. Yusa, H. Yamawaki, H. Fujihisa, H. Sato, Y. Shimoikeda, and S. Yamaguchi:Am. Chem. Soc., 135 (2013) 10322-10325.
推奨装置
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