NEX QC+による ニッケル鉱石の分析
はじめに
採掘箇所での鉱石の組成評価、および製錬工程に送られるニッケル鉱石中の各金属成分の濃度を管理することは重要です。酸化ニッケル(NiO)および酸化鉄(III)(Fe2O3)が最も重要な金属酸化物ですが、酸化チタン(TiO2)、酸化クロム(III)(Cr2O3)、酸化マンガン(II)(MnO)もかなりの量が含まれています。鉱石の品位評価は、潜在的な収量の推定にも影響します。
エネルギー分散型蛍光X線分析装置は、鉱山の探査と評価に優れたツールで、また処理工程全般にわたって原鉱、精鉱、マット、フィルターケーキおよびスラグの分析に用いることができます。エネルギー分散型蛍光X線分析装置NEX QC+(ネックス・キューシープラス)は、シンプルな操作で簡単にニッケル鉱石中の金属成分含有率が分析でき、最小限のコストで信頼性の高い品質管理を行うことができます。
今回は、検量線法を用いたニッケル鉱石中の注目成分(NiO、Fe2O3、TiO2、Cr2O3、MnO)の分析例を紹介します。
試料調製
試料は200メッシュ以下(粒径75 m以下)に粉砕しました。粉砕には振動ミルまたはボールミルを使用します。粉砕した試料5 gを試料成形機を用いて20トンで加圧成形を行い、ペレット状の試料を作成しました。
また、加圧成形を行わないルースパウダー法でも、ほぼ同等の精度で分析を行うことができます。その場合は、試料セルに3g投入し、タッピングして軽く押し込んだ後、測定に供します。試料セルはポリエチレン試料容器(Cat.No.CH1330)を、試料フィルムは厚さ4 μmのプロレンフィルム(Cat.No.CH416)を使用します。
装置および測定条件
NEX QC+の仕様と測定条件を表1に示します。今回は、測定雰囲気を大気で行っておりますので、ヘリウムなどのガスは不要です。
表1 NEX QC+の仕様と測定条件
酸化アルミニウム(Al2O3)、二酸化けい素(SiO2)などの軽元素成分についても、検量線作成用の標準試料があれば分析対象に加えることができます。これら軽元素を測定するには、ヘリウム置換を行い、試料を加圧成形する方法が最適です。
装置本体にはコンピュータとサーマルプリンタを内蔵しており、測定とデータの出力を一台で行えます。操作はタッチパネル方式で非常に簡単です。自動試料交換機(オプション、図1)により効率よく試料を測定することができます。
図1 自動試料交換機
また、タッチパネルの代わりに制御パソコンが付属したタイプ(NEX QC+ QuantEZ)もあります。
分析結果
(1) ニッケル鉱石中注目成分の定量分析
標準物質20点を用いて検量線を作成しました。検量線作成結果のまとめを表2に示します。いずれの成分も相関係数が0.999以上と、正確な検量線を作成できています。
表2 ニッケル鉱石中注目5成分の分析結果
Al2O3、SiO2 およびSO3につきましても、標準値があれば検量線作成、定量分析が可能です。
標準物質のうち、4点について、単純10回繰り返し測定を行い、再現性を確認しました。結果を表3に示します。いずれも良好な再現性が得られています。
表3 ニッケル鉱石中注目5成分の再現性確認結果
(a) 試料“ST14”
(b) 試料“S103”
(c) 試料“1696”
(d) 試料“1702”
(2) 未知試料の分析
未知試料4点について測定を行った結果を、採掘現場から送られてきた推定値とともに表4に示します。いずれも良好な分析値が得られていることがわかります。
表4 ニッケル鉱石未知試料の分析結果
(a) 試料“ST11”
(b) 試料“ST16”
N.D.: not detected
(c) 試料“ST20”
(d) 試料“AP06”
(3) ニッケル鉱石中主要成分の検出下限(LLD)
作成した検量線によるニッケル鉱石中主要成分の検出下限(LLD)を求めました。結果を表5に示します。検出下限は、ブランク試料(純酸化鉄粉末)を単純10回繰り返し測定し、得られた標準偏差の3倍(3σ)で計算しています。
検出下限の値は、測定時間や試料処理方法、検量線作成試料などによって大きく変動します。また試料の組成、特に鉄(Fe)の含有率にも大きく影響されます。
表5 ニッケル鉱石中主要成分の検出下限(LLD)
※純Fe2O3ペレットをブランクとして測定
まとめ
NEX QC+を用いてニッケル鉱石中主要成分の分析を簡便・迅速に行えることを確認しました。NEX QC+は小型サイズながらも低コストで高精度な分析ができ、ニッケル鉱石採掘現場でのスクリーニング分析に加え、製錬工程の品質管理分析にも対応できる非常に有用な装置です。
