結晶相同定
AIはどのようなケースで効果があるのか?
このAI(Artificial Intelligence:人工知能)搭載モジュールは、類似した試料の分析の中で、不純物や異物などマイナー相の同定が難しい場合に効果を発揮します。 オペレーターの関与や判断を必要とせず、トレーニングしたネットワークによって、従来のサーチマッチアルゴリズムより正確な相同定を行うことができます。
AIはどのようにして相同定を学習するのか?
このモジュールでは、Vision Transformerという、 ニューラルネットワークに基づいた深層学習(ディープラーニング)アルゴリズムを使用しています。X線回折(XRD)パターンに典型的な主要相とマイナー相、 何百もの可能性のあるマイナー相がどのように現れるか、シミュレーションデータを使ってニューラルネットワークに学習させることができます。
ニューラルネットワークとは?
ニューラルネットワークは、人間の脳を大まかにモデ ル化したものです。ネットワーク・アーキテクチャには、入力層、隠れ層、出力層があり、これらの層は多 くの「ニューロン」で構成されます。ニューロンはこれらの層間で接続され、各接続線にランダムな重みと バイアスを割り当てることで、「重要度」が設定され ます。トレーニング中は、このニューロンのネットワークが入力データ(XRDパターンのシミュレーショ ン)を処理し、重みとバイアスの初期値を利用して、 出力(結晶相の組み合わせ)を予測します。そして、 その予測を正解データと比較します。出力がどれだけ正解データに近いかによって、「報酬」または「ペナ ルティ」が「フィードバック」としてネットワークを通して伝搬されます。このプロセスを繰り返すことで、 ネットワークは接続の重みとバイアスを最適化し、入 力と出力の関係を「学習」していきます。
例1
同じX線回折パターンを、従来のサーチマッチアルゴリズムとAIによる相同定アルゴリズムを用いて分析し、正しく相同定できた割合を正解率として評価しました(例えば、4つの結晶相のうち3つを正しく同定できれば、正解率は3/4=75%となります)。
5種類の結晶相からなる比較的単純な鉱物試料をこの方法で分析すると、AI機能による相同定では、オペレーターの関与なしに平均正解率が79%から95%まで向上しました。AIによる相同定の結果を以下に示します。
シンプルな試料:鉱物(5相)
5種類の結晶相から構成される複雑なセメント試料に対しても、45%から80%の改善が見られました。 AI機能による相同定の結果を以下に示します。
複雑な試料:セメント(5相)
例2
相同定結果の正確さを評価するもう一つの方法として、リートベルト法を使って、同定された相から測定プロファイルをうまく再現できるかどうか、また、どの程度正確な定量結果が出るかを確認しました。
この例では、NIST2686(クリンカー標準試料)の測定プロファイルに対してAI機能を用いた相同定を行い、リートベルト法を用いて各相の比率を精密化しました。
NIST2686リートベルト解析結果
Weight fraction, wt% | |||
Conventional search/match |
AI-powered phase ID |
NIST certified values |
|
C3S | 44.5 ± 1.2 | 57.5 ± 0.8 | 58.6 ± 4.0 |
C2S | 35.1 ± 1.2 | 24.6 ± 0.8 | 23.3 ± 2.8 |
C3A | 0.2 ± 1.4 | 0.3 ± 0.6 | 2.3 ± 2.1 |
C4AF | 14.0 ± 0.8 | 13.1 ± 0.6 | 14.1 ± 1.4 |
Periclase | 6.10 ± 0.38 | 4.41 ± 0.24 | 3.3 ± 1.9 |
Note: C3S、C2S、C3A、C4AFにはそれぞれ、同じ組成で構造がわずかに異なる複数の結晶相が存在する
AI機能による相同定を用いた定量分析結果は、従来のサーチマッチよりも認証値に近く、より正確度が高いことが分かります。