アプリケーションノート B-XRD1159
はじめに
ペロブスカイト太陽電池では、発電層中の結晶化や残存前駆体(PbI₂など)の存在率が発電特性を左右します。それらは深さ方向で結晶相の分布状態が異なります。そのため通常の2θ/θ測定を用いると、侵入深さが測定角度ごとに変化してしまうため、膜全体の平均情報しか得られず、表層と下層の結晶相分布を区別できません。そこで入射角度ωを固定することで侵入深さを一定に出来る斜入射測定(2θ測定)を行うことで、深さ方向の結晶相分布を非破壊で把握できます。本アプリケーションでは、ペロブスカイト薄膜に斜入射測定を適用し、ペロブスカイト相と未反応PbI₂相の深さ方向分布を調べた事例を紹介します。
測定・解析例
試料はITO基板上に作製したペロブスカイト薄膜を使用しました。 X線波長はCu Kα線を用い、斜入射測定のためにPSA(平行スリットアナライザー)を用いた平行ビーム光学系を使用しました。入射角度(ω)を0.5°、1.0°、2.5°、5.0°、7.5°の5つの位置で固定し、2θ範囲10–60°を測定しました。
図1に、各入射角度で得られた回折パターンを示します。取得した各X線回折パターンは、ペロブスカイト相 100ピークのX線強度で規格化して比較しました。入射角が小さいほどX線の侵入深さが浅く、表面近傍の情報が強調されます。ペロブスカイト相のピーク位置は角度によらず一定でしたが、PbI₂ 00Lのピーク強度は入射角が0.5°(侵入深さ約0.08 μm)のとき最も高く、角度を増すにつれてX線強度が減少しました。 これは、PbI₂が主に表層に偏在していることを示唆しています。このように、入射角度を変えるだけで、未反応相の分布や結晶化の深さ依存性を簡便に評価でき、成膜条件やアニール処理条件の最適化に役立ちます。
図1 入射角度を変化させたペロブスカイト薄膜の2θ測定結果
試料ご提供: 京都大学 中村智也先生