インプレーンX線回折装置による基板上薄膜の異方的・非線形的熱膨張の観測

アプリケーションノート B-XRD2039

はじめに

基板表面上に二次元的に形成された薄膜は、積層方向(膜厚方向)には比較的自由に変形できる一方、面内方向には基板による強い拘束を受けるため、バルク材料や粉末とは異なる熱膨張挙動を示します。このような拘束条件下では、成膜に伴う温度変化によって膜の熱膨張・収縮が不均一に生じ、特に面内方向の変形が制限されることで応力が発生します。膜内に蓄積した応力は層構造の安定性に影響を与え、電子デバイスの特性不良の原因となり得ます。膜応力を適切に評価・制御するためには、基板によって面内が拘束された状態での熱膨張挙動を正確に理解することが不可欠です。本測定例では、薄膜試料の加熱による結晶格子面間隔の変化に着目し、積層方向および面内方向それぞれの熱膨張挙動を評価した結果を紹介します。

測定・解析例

Si基板上にNiSi膜(厚さ25 nm)を製膜した試料のアウトオブプレーンおよびインプレーンX線回折測定を、Anton Paar DHS 1100ドーム型加熱ステージを用いて試料を加熱しながら実施しました。

B-XRD2039_fig1_jp図1: DHS 1100を設置したX線回折装置

図2に、加熱前に室温で測定したX線回折プロファイル(左)と、アウトオブプレーン・インプレーン測定模式図(右)を示します。本試料のNiSi膜は多結晶膜であり、アキシオタキシーと呼ばれる、繊維配向軸が特定の方位に揃った配向状態にあります。このことからアウトオブプレーン測定とインプレーン測定とで、各回折ピークが異なる強度比で観測されました。両測定法で観測された112反射(図2中*で表示)のピーク角度はインプレーン測定の方が低い、すなわち面内方向の格子面間隔が積層方向よりも広がっていることから、NiSi膜に面内引張応力がかかっていることが示唆されます。

B-XRD2039_fig2_jp図2: アウトオブプレーン・インプレーン測定結果と測定模式図

同様のX線回折測定を高温下で行い、面内方向・積層方向の熱膨張挙動を評価しました。図3に、(a)50 ℃・100 ℃ー800 ℃加熱時の測定プロファイルの拡大図と、(b)加熱・冷却時のNiSi(112)の格子面間隔を示します。

(i) 室温から500 ℃までの加熱過程では、積層方向の格子面間隔は顕著に増加した一方、面内方向の格子面間隔増加は小さい結果となりました。この挙動は、基板による面内方向の拘束によるものと考えられます。(ii) 500 ℃・600 ℃では、積層方向と面内方向の格子面間隔が近い結果となりました。(iii)その後600 ℃から800 ℃までの加熱過程では、積層方向の格子面間隔の伸びが鈍化しました。(iv) 800 ℃から100 ℃までの冷却過程では格子面間隔が直線的に減少しました。(i)-(iii)の加熱時とは異なる挙動を示したことから、800 ℃までの加熱・冷却によって生じる格子面間隔の変形は不可逆変化であることが示唆されます。

B-XRD2039_fig3-2_jp図3: NiSi 112反射の測定・解析結果
(a) 加熱時のX線回折プロファイル (b)加熱・冷却時における格子面間隔変化

熱膨張の可逆性に対する加熱温度範囲の影響を調べるため、室温―500 ℃までの加熱測定を行い、800℃まで加熱した場合と比較しました。熱膨張率が大きく格子面間隔変化を観測しやすいNiSi 200反射(図2中**で表示)に着目し、インプレーン回折角度から面内方向の格子面間隔を計算した結果を図4に示します。

加熱温度範囲が500 ℃までの場合、加熱時と冷却時の格子面間隔はほぼ同じ数値を示しました。また格子面間隔の変化率は、基板であるSiの熱膨張率とよく一致していました。このことから500 ℃までは基板の拘束が強く、NiSi膜は面内方向にはSi基板とともに熱膨張・収縮していることがわかりました。一方、加熱温度範囲が800 ℃まででは、加熱時と冷却時とで格子面間隔の変化が異なる様子が観測されました。室温から500 ℃まではSiと同じ割合で熱膨張したあと、600800 ℃ではNiSi粉末の高温測定とよく一致する格子面間隔を示しました。冷却時には連続的な格子面間隔変化が観測され、その変化率はNiSi粉末試料の(200)格子面間隔とSiの熱膨張率の中間と見積もられます。以上の結果から、NiSiの熱膨張が可逆的である加熱範囲は500 ℃までに限られることが示唆されます。

B-XRD2039_fig4-2_jp図4: NiSi 200反射の測定・解析結果
(a) 加熱時のX線回折プロファイル (b) 加熱・冷却時における面内格子面間隔変化

以上に示したような高温条件における薄膜の熱膨張挙動の詳細な知見は、成膜工程における温度条件の最適化などへの応用が期待されます。

推奨装置・ソフトウェア

  • 全自動多目的X線回折装置 SmartLab(インプレーン軸・φ軸搭載)+RxRyアタッチメント+ドーム型加熱ステージDHS1100

お問い合わせ

製品選びから据付後の技術サービスまで、何でもお気軽にお問い合わせください。