X 線回折法によるセメント水和反応の経時変化観察

アプリケーションノート B-XRD1141

はじめに

セメントは水と反応し水和物を生成することにより、次第に凝結・硬化するという特徴を持っています。水和反応により生成される水和物がセメント粒子を覆い、水和物同士が結びついて硬化していきます。水和物の生成過程を詳細に把握することは、凝結・硬化のメカニズムの解明につながると期待できます。X線回折法は結晶性物質の同定法として強力な分析手法であり、水和物のうちエトリンガイトやモノサルフェート水和物などの結晶性物質の同定を行うことが可能です。今回は、水セメント比を25%とした普通ポルトランドセメントの結晶相の経時変化を観察しました。

測定・解析例 

大気環境下での試料乾燥を防ぐため、試料表面をフィルムで覆える液体試料ホルダーを用いて測定を行いました。結晶相の同定と回折ピーク強度(積分強度)の算出は、X線分析統合ソフトウェアSmartLab Studio II(Powder XRDプラグイン)を用いて行いました。図1に水和反応中のセメントのX線回折パターンの経時変化を、図2に水和物であるエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)、モノカーボネート(3CaO・Al2O3・CaCO3・11H2O)、石膏成分である二水石膏(CaSO4・2H2O)のそれぞれの回折ピーク強度の経時変化を示します。二水石膏由来の回折ピーク強度は減少していき、3.5時間後には回折ピークはほとんど確認できなくなりました。エトリンガイト由来の回折ピーク強度は8.5時間後までは増加し、9時間後以降には減少していきました。エトリンガイトは、アルミネート相(3CaO・Al2O3)と石膏成分の反応により水和反応初期に生成する水和物です。モノカーボネート由来の回折ピーク強度は2.5時間後から増加し始め、12時間後まで増加し続けました。モノカーボネートは、アルミネート相とエトリンガイト、石灰石成分が反応して生成します。このため、エトリンガイトの回折ピーク強度の変化は、モノカーボネートの生成と関係していることがわかります。エトリンガイトが生成する水和物生成初期段階は、コンクリートの凝結やその初期強度の発現に影響を与えます。また、エトリンガイトはコンクリートを膨張させる性質があり、エトリンガイトの生成が遅れることで打設後のコンクリートが膨張してひび割れる可能性があります。水和反応に寄与する水和物の回折ピークの変化を観測することは、コンクリートの強度発現や膨張に関する知見を得るのに役立つと考えられます。

B-XRD1141 Figure 1 Overlaid X-ray diffraction patterns of hydrated cement

図1:水和セメントのX 線回折パターン重ね描き


B-XRD1141 Figure 2 Changes over time in diffraction peak intensity of hydrates in hydrated cement

図2:水和セメント中水和物の回折ピーク強度の経時変化

推奨装置・ソフトウェア

► 全自動多目的X線回折装置 SmartLab + 高分解能・高速1次元X線検出器 D/teX Ultra250
► X線分析統合ソフトウェア SmartLab Studio II (Powder XRDプラグイン)

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