PI法によるアンモニアガスの検出
はじめに
アンモニア(NH3)が発生する際に水(H2O)が同時発生した場合、一般的なイオン化法であるEI法(電子イオン化法)で測定するとNH3の分子イオンであるm/z17がH2Oのフラグメントイオンでもある為、NH3とH2Oが合わさったシグナルが検出され、切り分けが難しくなります。しかし、ソフトイオン化法であるPI法(光イオン化法)ではNH3の分子イオンのみを検出し、且つイオン化エネルギーの違いから、H2Oは検出されない(イオン化されない)ため、NH3の発生挙動を詳細に捉えることができます。
ここで、熱分解した際にH2OとNH3ガスが同じ温度域で発生するポリアクリルアミドをEIとPIの両方で測定し、両者のプロファイルを比較しました。
測定・解析例
ポリアクリルアミドをHe雰囲気で室温~500℃まで20℃/minで昇温しました。
装置はThermoMass photoを用いイオン化法はEIおよびPI法にて測定しました。
TG結果とm/z17,18のサーモグラムを図1に示します。
図1 TGおよびm/z17,18のMSイオンサーモグラム (左:EI、 右:PI)
EIではH2Oのスペクトル比率は通常、m/z18が4に対してm/z17が1となります。ここで、図1のEI結果ではm/z17の表示倍率を4倍で表示しました。50~220℃付近まではm/z17,18プロファイルの一致がみられることからH2Oのみが発生していると考えられます。これに対し220℃以降はm/z18とm/z17の比率が異なっており、m/z17のスペクトルを持つNH3の発生が疑われます。しかしながら、m/z18の挙動からH2Oも発生していることがわかり、m/z17はNH3とH2Oの両成分が合わさったプロファイルとなります。したがってNH3のみの挙動はとらえづらくなります。
これに対し、PI結果をみるとm/z18は検出されておらず、250~350℃付近でm/z17の顕著な発生ピークが確認でき、500℃までは緩やかなガスの発生が続いています。PI法は真空紫外光を照射してその光エネルギーでイオン化する手法となり、NH3はPIの光エネルギーよりもイオン化エネルギーが低いためイオン化されm/z17として検出されますが、H2OはPIの光エネルギーよりもイオン化エネルギーが高いためイオン化されず検出されません。つまり、PIの結果で見られるm/z17の挙動はNH3のみの発生挙動を表していることになり、EI法では判断しにくいNH3の発生挙動を明確に確認することができています。
今回のように、アンモニアの発生挙動を確認する際において、水が同時発生する系ではPI法による測定は大変有効であるといえます。
推奨装置・推奨ソフトウェア
- Thermo Mass Photo、TG-DTA8122および1ch MS-IF、GC/MS
- Thermo plus EVO2ソフトウェア、3次元解析ソフトウェア
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