TG-FTIRによる バイオマス-石炭混焼評価

アプリケーションノート B-TA2047

はじめに

TG-FTIRは、加熱に伴って発生するガス成分をフーリエ変換赤外分光法(FTIR)によりリアルタイムで分析できる手法です。官能基情報に基づくガス種の推測が容易であることや、真空ポンプを必要としないシンプルな装置構成、そして、TGやSTAで汎用的に使用される窒素や空気雰囲気下で測定できる点が特長です。このため、材料の熱分解、燃焼など、様々な分野における発生ガス分析に広く利用されています。今回は石炭とバイオマス(鶏糞)の混焼挙動をTG-FTIRにて評価した測定・解析例を紹介します。石炭への鶏糞の混合は、環境負荷低減とエネルギー資源の有効活用の双方に寄与する手法として注目されており、燃焼挙動の理解が重要となっています。

測定・解析例

本測定では、石炭、鶏糞、およびそれらの混合試料についてTG-FTIR測定を行いました。各試料約5mgを白金容器に秤量し、STAに導入後、乾燥空気を200mL/minで流しながら加熱しました。得られたSTA測定結果を図1に示しました。

B-TA2047_fig1:空気雰囲気における各試料のSTA測定結果 図1: 空気雰囲気における各試料のSTA測定結果

石炭は300~600℃において発熱を伴う重量減少を示し、この温度域で燃焼が進行していることがわかります。一方、鶏糞は200~450℃にかけて緩やかな減量と発熱を示し、揮発性成分の脱離と部分的な燃焼が示唆されました。さらに500℃付近の急峻な発熱ピークおよび重量減少は炭化成分の燃焼、700℃付近の重量減少は炭酸塩の分解にそれぞれ起因すると考えられます。混合試料では、重量減少の開始温度および発熱ピークが石炭単独試料と比較して低温側へシフトする挙動が確認されました。この結果は、単なる物理的な混合では説明できない化学的な相互作用を示唆しています。

B-TA2047_fig2:石炭:鶏糞=9:1混合試料の453℃における赤外スペクトル 図2: 石炭:鶏糞=9:1混合試料の453℃における赤外スペクトル

反応をより詳細に検討する上で、発生ガスの赤外吸収スペクトル情報は非常に有効です。図2に、石炭と鶏糞を9:1の比率で混合した試料について、急峻な重量減少と発熱ピークが観測された温度域(453℃)の赤外吸収スペクトルを示しました。当該温度域における発生ガスの主成分はCO₂であり、燃焼反応が進行していることが確認されました。このCO₂の赤外吸収シグナル強度を指標として解析することで、混焼時の石炭と鶏糞の相互作用について、詳細な議論が可能となります。図3に、各試料におけるCO₂発生挙動の温度依存性を示しました。黒線はCO₂のシグナル面積強度の実測値を、赤線は各単独成分の測定結果から混合比に基づき算出した理論計算値を示しています。混合試料では、実測値は計算値から大きく乖離しており、成分間の相互作用が確認されました。特に実測値が低温側へシフトしていることは、混焼による着火性向上および燃焼反応の促進を示す有効な指標と考えられます。このような相互作用は混合比9:1の条件で最も顕著に認められました。TG-FTIRを用いることで、このような混焼プロセスにおける微細な反応挙動の違いを可視化できることが示されました。

B-TA2047_fig3:各試料のCO₂発生挙動の温度依存性 図3: 各試料のCO₂発生挙動の温度依存性

さらに混焼による残渣の光学像観察を行いました。図4に、石炭単独、鶏糞単独、混合比9:1を800℃まで加熱した時の残渣の光学像を示しました。混合試料では、残渣が容器中央で円盤状に収縮している様子が確認されました。この挙動は鶏糞と石炭の灰成分間の相互作用により、灰に焼結や溶融が生じた結果を反映していると考えられます。

B-TA2047_fig4:各試料の残渣 図4: 各試料の残渣

鶏糞にはカリウムやカルシウムなどのアルカリ・アルカリ土類金属成分が多く含まれています。一方、石炭灰は一般にシリカやアルミナを主成分としています。これらを混合して加熱することで、鶏糞由来の金属成分と石炭由来のシリカ成分が反応し、各単独成分よりも低温で溶融を開始する低融点共晶体が形成される可能性があります。その結果、灰粒子の一部が軟化・溶融し、粒子同士が結合することで灰全体が緻密化し、収縮挙動として観測されたものと推察されます。

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