アプリケーションノート B-TA1076
はじめに
一部の重油や軽油中に含まれるノルマルパラフィンは、低温域において結晶として析出・成長し、ワックスを形成します。特に軽油の場合、このワックスの析出による流動性の低下は、燃料供給ラインやフィルターの詰まりを引き起こし、エンジンの始動困難や出力低下の原因となります。
本検討ではDSCを用いた昇降温測定により、冷却過程における結晶化温度および昇温過程における融解温度を測定しました。
測定・解析例
測定は、軽油20mgをAl製シール容器に入れ、冷却速度および昇温速度2℃/minの条件で行いました。

図 1 DSC測定結果
冷却過程では、-5℃付近から-75℃にかけて結晶化に起因する連続した発熱ピークが観測されました。この結果から、-5℃付近からワックスの析出(結晶化)が開始し、流動性が低下することが推定されます。
一方、昇温過程では、-75℃付近から0.6℃にかけて融解に起因する連続した吸熱ピークが見られ、0.6℃付近で液体状態になり、流動性が回復すると考えられます。
このように、DSCを用いた冷却過程の結晶化(析出)開始温度および昇温過程における融解終了温度の測定は、軽油などの保管・輸送時の流動性評価に有用であると考えられます。
なお、冷却過程の結晶化温度(発熱ピークの外挿開始温度)は規定された条件下でワックス結晶が出現し始める温度を示す指標であり、Wax Appearance Temperature(WAT)と呼ばれています。また、昇温過程の融解温度(吸熱ピークの外挿終了温度)はワックス結晶が完全に消失する温度を示す指標であり、Wax Disappearance Temperature(WDT)と呼ばれています。
これらの温度は、ASTM D8420 や IP 389 などの規格において、燃料中のワックス挙動を評価するための代表的な特性値として定義されています。本測定で得られた WAT および WDT は、これらの規格における概念と整合した指標として、軽油の低温流動性評価に適用可能であると考えられます。