ダイナミックDSCによるPMMAのガラス転移測定
はじめに
高分子材料などにおいてガラス転移温度を調べる際にDSCは良く用いられる分析手法の一つです。ガラス転移は比熱容量の変化であるためDSC結果ではピークではなくベースラインのシフトとして現れます。しかしながら、ガラス転移が単独で出現する場合はガラス転移によるシフトが確認できますが、エンタルピー緩和による吸熱ピークや材料によっては脱水による吸熱ピーク、ガラス転移直後の結晶化による発熱ピークなどが重なり、ガラス転移のシフトを確認しにくい場合もしばしばあります。このため、通常の等速昇温DSC測定ではサイクル測定を行い、再昇温結果からガラス転移を確認する場合もあります。今回、PMMA試料においてダイナミックDSC測定からガラス転移の確認を行いました。
測定・解析例
PMMAのダイナミックDSC測定結果を図1に示します。ダイナミックDSC測定は試料量10mg、昇温速度5℃/min、周期45s、振幅1℃で行いました。また図2はダイナミックDSC結果からTotal DSC曲線、reversing DSC曲線、non reversing DSC曲線に分離、解析した結果となります。
図2におけるTotal DSC曲線は等速昇温で測定した結果に相当します。Total DSC曲線では84℃と117℃に吸熱ピークが見られ、その後吸熱方向にDSCは変化しており、この結果から等速昇温で今回の試料を測定してもガラス転移によるベースラインのシフトを読み取ることは困難であることがわかります。
次に図2におけるreversing DSC曲線はダイナミックDSC結果における振幅に追従する成分となり、試料の熱容量の変化を表す曲線となります。ガラス転移は比熱容量の変化であるため、reversing DSC曲線に現れることになりますが、今回の結果においても111℃にベースラインのシフトが明確に現れており、PMMAのガラス転移は111℃であることがわかります。
なお図2のnon reversing DSC曲線はダイナミックDSC結果におおいて振幅に追従しない成分となります。脱水やエンタルピー緩和による吸熱ピークはこのnon reversing DSC曲線に現れます。今回の結果では84℃、115℃に吸熱ピークが見られ、またその後も吸熱方向へ変化しています。
等速昇温での測定では図2のreversing DSC曲線とnon reversing DSC曲線が合わさって観測されるため、ガラス転移を確認することが困難ですが、ダイナミックDSC測定を行うことでガラス転移の変化のみがreversing DSC曲線に現れ、明確にガラス転移温度を確認することが可能となります。
図1 ダイナミックDSC測定結果
図2 ダイナミックDSC解析結果
推奨装置・推奨ソフトウェア
- DSCvesta(電気冷却ユニット)
- ダイナミックDSCソフトウェア
- Vullios
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