熱伝導率の異方性評価
アプリケーションノート
B-TA4020
はじめに
結晶性高分子など分子鎖の配向に起因して熱伝導率に異方性が生じる材料に関して熱伝導率を評価する場合、サンプルの厚さ方向と面内方向を区別する必要があります。紙の原料は特殊な場合を除いて針葉樹又は広葉樹のパルプであり、製紙技術によって千差万別の性質を持った紙が造られます。紙繊維はシート平面に平行に配向し、多層のネットワーク構造を形成している典型的な異方性材料です。
TRIDENTのMTPSとTPS Flexの両センサーを用いて、紙繊維の厚み方向と面内方向の熱伝導率を区別して、熱伝導率の異方性をそれぞれ測定、評価しました。


測定・解析例
- 測定サンプル:市販の紙の名刺(50~100枚)
- 使用装置:熱伝導率測定装置 TRIDENT/MTPSセンサー、TPS Flexセンサー(φ13:センサー直径約13mm)、 TPS Anisotropy Utility
- 測定方法:名刺を重ね合わせることで、TPS Flexセンサーの直径を超えるφ13mm以上を確保し、センサー面に対して厚みと面内方向(TPS Anisotropy Utility)、および両面複合の3方位の熱伝導率の違いを測定、比較してみました。
- 測定条件に必要な容積比熱は、1.2 MJ/(m3·K)を用いました。
熱伝導率λ W/mK |
||||
TPS Flex |
MTPS |
|||
TPS Anisotropy Utility |
TPS バルク | |||
厚さ方向 Z |
面内方向 R |
面‐厚さ 合成 |
面ー厚さ 混合 |
厚さ方向 Z |
λZ | λR | λZ,R Calc. | λZ,R | λZ |
0.0991 | 0.6461 | 0.253 | 0.2597 | 0.099 |
MTPSとTPS Flexセンサーを用いた測定セットアップ
TPS Anisotropy Utilityによる異方性測定結果の信頼性を確認するため、異方性の合成熱伝導率 λZR Calc.を以下の計算式にて算出し、同条件で行ったTPS Flexのバルク測定による面‐厚さ方向混合値の結果と比較しました。
λZ:厚さ方向の熱伝導率、λR:面方向の熱伝導率、λZR Calc.:λZ と λR を合成した熱伝導率
紙の面方向と厚さ方向の熱伝導率には明確な違いが観測され、その異方性が確認できました。異方性測定から得られた厚さ方向の熱伝導率 λZ は、MTPSの結果とも良く一致しています。さらに、異方性測定から得られた厚さ方向 と面方向の結果から算出した合成値と、TPS Flexのバルク測定の混合値も良い一致が認められており、各測定法による結果の整合性が確認できました。
紙の厚さ方向と面方向の熱伝導率は明らかに異なり、面方向では多層のネットワーク構造を形成することでより高い値を示しています。
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