室温条件における蛋白質結晶の高速測定

アプリケーションノート B-SCX2017

はじめに

一般に、蛋白質結晶のX線回折測定では、放射線損傷を抑える目的で結晶を凍結し、測定を行います。その際、凍結によって結晶中の水分子が結晶化(氷化)すると蛋白質結晶が損傷するため、適切な抗凍結剤を添加する必要があります。しかし、不適切な抗凍結剤による結晶格子の乱れは回折データの質を低下させる要因となります。さらに、凍結過程そのものに起因するわずかな蛋白質分子の構造変化(freezing artifact)が解析結果に影響を与えることがあります。これらの影響を避ける手法として室温測定が注目されていますが、放射線損傷が進行しやすいため、高速なデータ収集が不可欠です。本アプリノートでは、高輝度X線を出力可能な回転対陰極型X線源を搭載したXtaLAB Synergy-Rおよび単結晶構造解析統合プラットフォームCrysAlisProを用いた測定条件の最適化により、室温条件での蛋白質結晶の高速測定を行いました。

測定・解析例

測定試料には、植物由来の甘味料として認可されているソーマチン蛋白質を用いました。母液(結晶化に用いた溶液)をMiTeGen社のMicroRT(PETチューブ)上部に加え、ソーマチン結晶をマウントした試料ピンに被せて固定しました(図1)。MicroRT上部に加えた母液が湿度の供給源として働き、測定中の結晶の乾燥・劣化が抑えられます。さらに、X線照射によるダメージを最小限にするため、露光時間を回折像1枚あたり1秒に設定し、総測定時間12分でデータを収集しました。

B-SCX2017_Figure1_ja図1: 測定に使用したツール

測定開始時と測定終了後の回折像を比較したところ、回折スポットの強度や高角側の回折スポットに大きな変化は確認されませんでした(図2)。このことから、室温条件でも、蛋白質結晶が劣化する前に回折データを得ることができました。また、測定データの質を示すRint*は4.5%と低い値を示し、高速測定にも関わらず十分な質の解析結果を得られました(表1)。

B-SCX2017_Figure2_ja図2: 測定開始時と測定終了時の回折像

表1: 測定条件およびデータ処理結果

B-SCX2017_Table1_ja

以上のように、高輝度X線を出力可能な回転対陰極型X線源を搭載したXtaLAB Synergy-Rおよび単結晶構造解析統合プラットフォームCrysAlisProによる測定条件の最適化により、高速なデータ収集が可能となり、室温条件においても放射線損傷による結晶の劣化が進行する前に良質な回折データを取得できることを実証しました。室温測定を用いることで、抗凍結剤による結晶の劣化や、凍結によるfreezing artifactの影響を受けることなく蛋白質結晶の構造解析を行うことが可能です。

*Rint(等価反射間一致度):等価な反射間の強度のばらつきを表す指標。一般に値が小さいほどデータの一致性が高く、結晶性や測定品質の目安として用いられます。5%以下が良い値として基準とされています。

推奨装置・ソフトウェア

  • 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergy-R
  • 単結晶構造解析統合プラットフォーム CrysAlisPro

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