3D ED/MicroEDによる錠剤中のAPIの結晶構造解析

アプリケーションノート B-SCX1026

はじめに

医薬品の錠剤製造工程では、打錠圧により有効成分(API)の結晶多形が変化し、別の多形へ転移する可能性があります。しかし、錠剤には賦形剤や添加剤などが含まれるため、API含有量が非常に少ない場合には粉末X線回折(PXRD)を用いたAPIの結晶多形の同定が困難になる場合があります。また、錠剤中のAPI結晶は微細化しているため、単結晶X線構造解析の適用も困難です。電子回折構造解析(3D ED/MicroED)は、サブマイクロメートルサイズの微結晶から結晶構造を決定できる手法です。さらに、混合試料中の個々の結晶粒子を狙い撃ちして測定できるため、賦形剤などの影響を受けずにAPIの結晶構造を解析できます。本アプリノートでは、3D ED/MicroEDを用いて医薬品錠剤中のAPIの結晶多形を評価した事例を紹介します。※1

測定・解析例

パルボシクリブ(商品名:イブランス)錠を粉砕し、PXRD測定を実施したところ、明瞭なピークがあまり見られない回折パターンが得られました(図1)。その結果、市販品パルボシクリブの既知結晶多形であるForm Aに由来する回折ピークがいくつか観測されましたが、その完全な同定は困難でした。この要因として、錠剤中に含まれるAPIの割合が非常に低いために、賦形剤や各種添加剤からの散乱の影響によってAPI由来の回折情報がマスクされた可能性が考えられます。

B-SCX1026_fig1_jp図1 イブランス錠剤粉砕試料のPXRDパターン

そこで、粉砕した錠剤試料をサンプルグリッド上に分散し、電子回折装置XtaLAB Synergy-EDを用いた3D ED/MicroED測定を実施しました。グリッド上に観察された数百個の結晶粒子のうち20個程度の粒子についてスクリーニングを行い、その中から2 × 1 × 0.2 μm程度の大きさのAPI微結晶を選択して回折データを取得しました。得られたデータを用いて結晶構造解析を行った結果、打錠前の原薬結晶と同一のパルボシクリブForm Aの結晶構造を決定することができました(図2)。

さらに、打錠前後の結晶構造について分子配座を比較したところ、原子位置の二乗平均平方根偏差(RMSD)は0.1047 Å、最大偏差(Max. D)は0.1971 Åといずれも非常に小さい値を示しました。この結果から、打錠工程を経てもパルボシクリブの結晶構造に実質的な変化は生じておらず、結晶多形はForm Aのまま維持されていることが明確に示されました。※2

B-SCX1026_fig2_jp図2 パルボシクリブの3D ED/MicroED構造解析結果

次に、得られた錠剤中のAPIの結晶構造を用いてPXRDパターンをシミュレーションし、打錠前のパルボシクリブForm A粉末について実測したPXRDパターン、および結晶構造からシミュレーションしたPXRDパターンと比較しました(図3)。その結果、打錠前後でPXRDパターンの全体的な形状はよく一致しており、結晶多形が維持されていることが確認できました。一方で、打錠後のシミュレーションパターンでは、各回折ピークがわずかに高角側へシフトしていることが認められました。この高角側へのシフトは、Braggの法則に基づくと結晶面間隔(d値)の減少、すなわち結晶格子の収縮を示唆するものです。

この結果を検証するため、打錠前後のAPI結晶について、3D ED/MicroED測定から得られた格子定数を比較したところ、a、b、c軸長はいずれも約1~3%減少していました。特にc軸方向で比較的大きな収縮が観察され、打錠時に加わる圧力が結晶格子に異方的な影響を及ぼしている可能性が示唆されました。これに伴い、単位格子体積Vは打錠前と比較して6.4%減少し、結晶密度 Dcalc は6.9%増加していることが明らかとなりました。

以上の結果から、パルボシクリブは打錠工程を経ても結晶多形の転移や結晶構造の大きな変化は生じない一方で、結晶格子レベルでは収縮が起こり、それに伴い結晶密度が増加していることが示されました。このような微細な格子変化は、従来のPXRD測定のみでは検出が困難でしたが、3D ED/MicroEDによる結晶構造解析によって直接的に評価できることが実証されました。本手法は、製剤プロセス開発、多形管理、および品質管理に有用な解析手法となることが期待されます。

B-SCX1026_fig3_jp図3 パルボシクリブの打錠前後のPXRDパターンと結晶格子の比較

※1: 本研究は、スペラファーマ株式会社様との共同によるものです。(1)
※2: RMSDおよびMax. Dは、分子のコンフォメーションにどの程度の差異があるかを評価する指標のひとつです。結晶中の分子構造においては、RMSDが0.35 Å以上ある場合、コンフォメーションの異なる結晶多形と見なされます。(2)

参考文献:

  1. Structural Analysis of Active Pharmaceutical Ingredients in Tablets Using 3D ED/MicroED(2025)
    Keiyo Nakai, Takashi Kikuchi, Kuniyoshi Miki, Akito Sasaki,Mitsuhisa Yamano;Mol. Pharmaceutics,22, 2613–2622.
  2. Conformational Polymorphism(2013)
    Aurora J. Cruz-Cabeza, Joel Bernstein;Chem. Rev.,114,2170–2191.

推奨装置・ソフトウェア

  • 電子回折統合プラットフォーム XtaLAB Synergy-ED
  • 単結晶構造解析統合プラットフォーム CrysAlisPro

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