アプリケーションノート B-SCX1025
はじめに
医薬品の水溶性改善などのために原薬に添加剤を加えて作製される複合体結晶は、分子間のプロトン移動の有無によって塩と共結晶に分類されますが、晶析法の開発や承認申請のためにはこれらを判別する必要があります。しかし、X線回折法では水素原子の位置を決定するのが難しく、塩と共結晶を直接判別することは困難です。一方、電子回折では水素原子の寄与がX線の場合より大きいため、水素原子を明瞭に観測できます。本アプリノートでは、XtaLAB Synergy-EDを用いた電子回折構造解析(3D ED/MicroED)により複合体結晶中の水素原子の位置を直接決定することで、塩・共結晶を判別した例を紹介します。※1
測定・解析例
試料として、それぞれ塩および共結晶であることが報告されているビソプロロールフマル酸塩(メインテート)およびエンシトレルビルフマル酸共結晶(ゾコーバ)を用いました(図1)。
図1 測定に用いた塩・共結晶試料
ビソプロロールフマル酸塩(Form I)の粉末状結晶をサンプルグリッドに載せ、XtaLAB Synergy-EDを用いて室温で3D ED/MicroED測定を行ったところ、十分な回折強度が得られました。2個の結晶から取得した回折データをマージして構造解析を実施したところ、ビソプロロールフマル酸塩(Form I)の結晶構造が明らかになりました(図2)。ビソプロロールの窒素原子とフマル酸の酸素原子の間には、水素原子に由来する残差静電ポテンシャルピークが現れました。この残差ピークと窒素原子、酸素原子の距離はそれぞれ約1.0–1.1 Åと約1.7 Åであり、窒素原子の方により近いことから、この結晶はカルボン酸からアミンへのプロトン移動を伴う塩であることを実証できました。
図2 ビソプロロールフマル酸塩の3D ED/MicroED構造解析結果
エンシトレルビルフマル酸共結晶についても、同様の方法で3D ED/MicroED測定を行うことで、結晶構造を得ることに成功しました(図3)。エンシトレルビルの2つのヘテロ環窒素原子とフマル酸の酸素原子の間には、それぞれ水素原子に由来する残差静電ポテンシャルピークが現れています。この残差ピークと窒素原子、酸素原子の距離はそれぞれ約1.6–1.7 Åと約1.0–1.1 Åであり、酸素原子の方により近いことから、この結晶は分子間のプロトン移動を伴わない共結晶であることを実証できました。
図3 エンシトレルビルフマル酸共結晶の3D ED/MicroED構造解析結果
3D ED/MicroEDを用いることで、少量のサンプルから複合体結晶の塩・共結晶を迅速・確実に判別できます。本手法は、医薬品の製造プロセスの効率化や、特許戦略・規制対応戦略の強化に有効です。
※1: 本研究は、スペラファーマ株式会社様との共同研究です。(1)
参考文献
推奨装置・ソフトウェア
- 電子回折統合プラットフォーム XtaLAB Synergy-ED
- 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro