単結晶X線構造解析結果による固体CDスペクトルの解釈

アプリケーションノート B-SCX1023

はじめに

ある構造と、それを鏡で映して反転した鏡像が、回転操作によって互いに重ね合わせることができない構造として存在することを掌性(キラリティー, Chirality)といいます。我々の手はキラルなものの身近な例で、右手とその鏡像である左手は互いに重ね合わせることができません。医薬品をはじめとするキラル化合物は、立体配置(絶対構造)の違いによって生体に対する作用が異なる場合があるため、分子の正しい立体配置を明らかにすることが重要です。

固体円偏光二色性測定法(固体CD)は測定対象試料に対して直線偏光(同強度の左右の円偏光を含む)を照射し、左右の円偏光の吸光度差を利用して測定対象試料が光学活性を有しているかを確認し、その光学純度を相対的に評価することができる手法です。一度の測定で試料全体の情報が得られる優れた手法ではありますが、本測定結果のみからは、図1のように測定対象試料が右手系であるか左手系であるかを判断することができません。

B-SCX1023_fig1_jp図1 固体CDによる光学活性および純度の確認例

一方、単結晶X線構造解析では、単結晶1粒から分子の絶対構造を直接決定することができます。ただし、得られる情報は測定対象とした結晶1粒に由来するものであり、試料全体のキラリティーを評価するものではありません。

そこで本アプリノートでは、測定対象試料が光学活性を有するかを確認することが可能な固体CDと、単結晶1粒の絶対構造を正確に決定できる単結晶X線構造解析を併用し、得られた固体CDスペクトルが右手系と左手系いずれの立体配置に起因しているのかを判断できるかを検証しました。

測定・解析例

単結晶X線構造解析においては、キラルな分子からなり、かつ対称心がない空間群に属する結晶を測定した場合、通常は等しい強度で観測される回折スポット同士のペア(Friedel pair)において、異常分散と呼ばれる現象により観測される強度に違いが生じます。この強度差を精密に測定し、異常分散効果を考慮したうえで構造精密化を行うことで、図2のように絶対構造を決定することが可能となります。

B-SCX1023_fig2_jp図2 単結晶X線構造解析による絶対構造の決定

単結晶構造解析により右手系であると確認された結晶を用い、固体CDスペクトル測定を実施しました。その結果、図3に示すように右手系の結晶から得られる固体CDスペクトルを明らかにすることができました。

このように各試料における絶対構造と固体CDスペクトルの対応関係を確立できていれば、光学純度が未知の試料を用いた場合でも、得られた固体CDスペクトルがどちらの立体配置に起因しているのかを簡便に判断することが可能となります。

B-SCX1023_fig3_jp図3 右手系であると確認された結晶を用いて測定した
固体CDスペクトル

推奨装置・ソフトウェア

  • 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
  • 試料吹付温調装置

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