アプリケーションノート B-SCX1022
はじめに
イオン液体は融点が低く、常温で液体として存在するため結晶状態の構造解析が非常に困難です。さらに、融点以下の過冷却状態ではアモルファス(非晶質)化しやすく、単結晶X線構造解析に適した結晶を得るためには結晶化温度の検討が大きな課題となります。吹付低温装置を用いることで0.1 ℃刻みの細かい温度コントロールが可能であり、カメラで試料の状態を目視しながら結晶化温度を検討できます。本アプリノートでは、吹付低温装置とXtaLAB Synergyシリーズを組み合わせ、精密な温度コントロールによる結晶化を行い、イオン液体の結晶構造解析を実施しました。
測定・解析例
測定試料として、融点 –15 ℃のイオン液体P13–TFSI(組成式:C₁₀H₁₈F₆N₂O₄S₂)を用いました(図1)。サンプルマウントツールを用いてイオン液体P13–TFSIを少量すくい、急冷(Flash)法と温度勾配法の2つの方法を組み合わせて結晶化を行いました。Flash法では冷却窒素気流をカードなどで一時的に遮った状態から、一気にカードを引き抜くことで試料を急速に冷却します。今回は融点よりも低い –17 ℃で急冷しました。一方、温度勾配法では –17 ℃から融点付近の –15 ℃まで時間をかけてゆっくりと温度を上昇させました。これら2つの方法を交互に繰り返すことで、結晶成長を促進し、得られた結晶の回折測定および構造解析を実施しました。
図1: イオン液体P₁₃–TFSIの構造式果
図2にFlash法および温度勾配法を用いた結晶化の過程を示します。「Flash法による試料のアモルファス化」と「温度勾配法による結晶成長の促進」の工程を交互に繰り返すことで、単結晶X線構造解析が可能な結晶を作製することができました。十分な大きさの単結晶が作製できたことは、試料観察カメラによる目視と、スクリーニング測定により得られた回折パターンから容易に判断できました。得られた結晶を用いてXtaLAB Synergyシリーズによる回折測定を行うことで、イオン液体P13–TFSIの結晶構造を解析できました(図3)。
図2: イオン液体P13–TFSIの結晶化の過程
図3: イオン液体P13–TFSIの結晶構造解析結果
以上のように、単結晶X線構造解析装置に搭載された吹付低温装置を利用し、Flash法によるアモルファス化と温度勾配法による結晶成長を繰り返すことで、結晶化条件を効率よく探索できる手法を構築しました。その結果、一般に単結晶構造解析が困難とされるイオン液体についても単結晶の作製および構造解析が可能であることを実証しました。
推奨装置・ソフトウェア
- 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
- 吹付低温装置 GN2(Ulvac Cryogenics Inc.社)
- 吹付低温装置 Cobra(Oxford Cryosystems社)
- 単結晶構造解析統合プラットフォーム CrysAlisPro