アプリケーションノート B-SCX1021
はじめに
天然鉱物は、通常、異なる鉱物の集合体として産出されます。また、一見ひと粒の単結晶のように見えても、実際にはわずかに方位の異なる結晶が貼り合わさっていることが少なくありません。そのため、結晶を切り出しても回折スポットが重なり、従来は単結晶として構造解析することは困難でした。XtaLAB Synergyシリーズに搭載されたCrysAlisProは、複数の結晶が貼り合わさった双晶や多結晶からの回折データであっても、特定の結晶に由来する回折点を抽出して指数付けし、データ処理を行うことができます。本アプリノートでは、XtaLAB Synergyシリーズを用いた単結晶X線構造解析により、天然鉱物を多結晶状態のまま測定した後、CrysAlisProによって重なった回折スポットを分離・積分処理し、構造解析した例を紹介します。※1
測定・解析例
試料として、埼玉県小松鉱山より産出したポピー石(poppiite)を用いました。約40 x 20 x 20 μm³の大きさのポピー石をXtaLAB SynergyCustom (FR-X: Cu Kα, HyPix-6000HE)にマウントして回折測定を行いました。一般に、無機結晶の測定にはMo線源を用いることが多いですが、小さな結晶サイズでも十分な回折強度を得るため、また回折点の重なりを低減するため、波長が長く回折角の大きいCu線源を使用しました。また、重なり合った回折点を分離しやすくするために振動角を0.15°とし、回折データの冗長性(redundancy)を高めるために全260,806枚の回折イメージを測定しました。 その結果、十分な回折強度は得られたものの、回折スポットがデバイ環方向に伸びた形状をしており、多結晶状態であることが示唆されました(図1)。CrysAlisPro付属の逆格子ビューワーであるEwald Explorerを用いて逆格子を観察すると、同心円状のデバイ環をはっきりと見ることができ、複数の結晶が不規則に集合した多結晶であることが、より明確にわかります。
図1: ポピー石のX線回折イメージと逆格子空間表示
得られた回折データに対して、CrysAlisProによる指数付けを試みました。その結果、全体の約28.5%の回折点に対して1つの結晶に由来する指数が付き、その格子定数を決定することができました(図2)。得られた結晶格子を元に積分処理を行うことで、この結晶に由来する回折強度のデータを抽出することができました。このように複数の結晶が貼り合わさった結晶の回折測定を行う場合には、振動角を小さくして測定することで回折点同士のオーバーラップを分離しやすくなり、指数付けの成功率が高まります。
図2: ポピー石の回折データへの指数付け
得られた回折強度データを用いて構造解析を行った結果、バナジウムを主成分とする鉱物であるポピー石の結晶構造を明らかにすることができました(図3)。多結晶から取得した回折データにもかかわらず、測定解析の質を示すRint およびR₁の値はそれぞれ5.08%、5.01%と良好で、専門誌への論文投稿も可能なレベルの良質な構造解析データとなりました。振動角を小さくしたことに加えて、測定枚数を増やして回折データの冗長性(redundancy)を高めることによって、多結晶から抽出したデータであっても回折強度の精度が良くなり、信頼性の高い構造解析結果を得ることに繋がりました。
図3: ポピー石の単結晶X線構造解析結果
※1:本研究は、山口大学・永嶌真理子先生との共同研究です。(1)
参考文献
推奨装置・ソフトウェア
- 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
- 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro