アプリケーションノート B-SCX1020
はじめに
銅植物が産生する配糖体化合物は、機能性天然成分として注目を集めています。しかし、その立体構造解析、とりわけNMRを用いた糖鎖構造解析には困難が伴います。糖鎖はNMR上で非常に複雑なスペクトルパターンを与えるため、その解析には数mg以上の試料と長時間の測定が必要です。単結晶構造解析法を用いれば、たった一粒の結晶サンプルから、糖鎖の立体構造を直接解明し可視化することができます。本稿では、最新の単結晶X線構造解析および電子回折構造解析(MicroED)により、高山植物の花から単離した1 mg未満のフェノール配糖体試料から、その3次元分子構造を決定した例を紹介します。※1
測定・解析例
高山植物のイワウメの花2 gからメタノールで抽出した成分を、ペーパークロマトグラフィーおよびHPLCを用いて単離精製しました。各単離成分を500 μLの95%アセトニトリル水溶液に溶かし、4 ℃で3週間かけて濃縮することで結晶化させました。
試料1: ケルセチン3-O-β-D-ガラクトピラノシド
0.27 mgの単離試料から得られた大きさ26 x 24 x 9 μm³の結晶をXtaLAB SynergyCustom (FR-X: Cu Kα, HyPix-Arc 150°)にマウントし、測定温度100 KでX線回折データを収集しました。構造解析を行った結果、フラボノイドの一種として知られるケルセチンの配糖体であるケルセチン3-O-β-D-ガラクトピラノシドの分子構造が明確に得られました(図1)。NMRでの構造決定に必要な量を大きく下回る試料量から、フェノール配糖体化合物の3次元構造を直接解明できました。
図1: ケルセチン3-O-β-D-ガラクトピラノシドの単結晶X線構造解析結果
試料2: イソラムネチン3-O-ルチノシド
本試料からは非常に細かい結晶しか得られず、X線では十分な回折データを得ることができませんでした。そこで、サブミクロンサイズの結晶からでも回折測定が可能なXtaLAB Synergy-EDを用いてMicroED測定を行いました。電子顕微鏡観察下でサンプルグリッド上から結晶を探索し、3 x 1 x 0.2 μm³程度の大きさの結晶を選んで室温にて電子回折データを収集しました。構造解析を行ったところ、フラボノイドの一種として知られるイソラムネチンの二糖配糖体であるイソラムネチン3-O-ルチノシドの分子構造が得られました(図2)。一般的に、配糖体化合物は糖の数が増えるほど結晶の作製が難しく、二糖配糖体の結晶構造解析の報告例はごく少数しかありませんが、MicroEDを用いることで非常に小さな微結晶からその分子構造を決定できました。
図2: イソラムネチン3-O-ルチノシドの電子回折構造解析(MicroED)結果
単結晶X線構造解析および電子回折構造解析(MicroED)を用いることで、1 mg未満の単離試料から天然化合物の分子構造を直接決定することができました。できるだけ少ない試料量からの構造決定を可能にすることで、構造解析にかかるコストや時間を節約するとともに、高山植物のような希少な天然資源からの物質探索における環境への負荷を低減できます。
※1: 本研究は、国立科学博物館・村井良徳先生、東京農工大学・平野日向様、アステリズム合同会社・榊原風太様との共同によるものです。(1,2)
参考文献
- Sustainable micro-scale identification of phenolic glycosides in alpine flower through single-crystal structure analysis (2026)
Hyuga Hirano, Takashi Kikuchi, Futa Sakakibara, Yoshinori Murai; J. Mol. Struct., 1365, 175740. - 高山植物における微量フェノール配糖体の構造解析 (2026)
平野日向, 菊池貴, 榊原風太, 村井良徳; アグリバイオ(北隆館), 2026年3月号, 61-64.
推奨装置・ソフトウェア
- 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
- 電子回折統合プラットフォーム XtaLAB Synergy-ED
- 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro