アプリケーションノート B-SCX1018
はじめに
金属や金属酸化物のクラスターの性質や反応性は、その分子構造や電子状態により大きく変化しますが、NMRをはじめとした分光分析ではその構造決定を行うことは容易ではありません。そのため、原子レベルでの構造解析が可能な手法が求められます。単結晶X線構造解析は、金属クラスターの構造決定に最も有効な手法のひとつです。本稿では、XtaLAB Synergyシリーズを用いた単結晶X線構造解析により、銀クラスターとポリオキソメタレート(POM)の複合体触媒の構造変換を追跡した例を紹介します。※1
測定・解析例
リング型のPOMである[P₈W₄₈O₁₈₄]40-内部に銀原子30個からなるクラスターを包接した複合体Ag30の単結晶をXtaLAB Synergy-R (Mo Kα)にマウントし、測定温度123 Kで回折データを収集しました。重金属のクラスターや酸化物の結晶はX線の吸収が大きいですが、透過力の高いMo線源を使うことで良質なデータを得ることができました。CrysAlisProを用いて回折データを処理し、Olex2およびSHELXを使用して構造解析を実施しました。その結果、直径約2.2 nm、分子量約15,200にも及ぶ巨大な銀クラスター・POM複合体触媒の構造を直接決定することに成功しました。結晶構造から明らかになった対カチオンの個数は、XPSと酸塩基滴定から求めた複合体触媒の負電荷と一致していました。さらに、結晶構造を元にした量子化学計算と合わせることで、クラスターの電子状態が明らかになりました。
図1: POM-銀クラスター複合体Ag30の結晶構造解析
このクラスター複合体は、水素ガスの存在下で様々な有機化合物を還元する触媒として機能します。そこで、触媒反応のメカニズムを推測するため、クラスター複合体Ag30に水素化ホウ素テトラブチルアンモニウム(TBABH₄)を作用させ、還元体Ag30’の結晶を作製し、構造解析を行いました。その結果、リング状POMの分子構造が保たれたまま、その内部で銀クラスターの配列や電子状態が変化していることが明らかになりました(図2)。単結晶X線構造解析によって、銀クラスター触媒の活性発現に伴う構造変換が立証され、反応機構を推定することが可能になりました。
図2: 還元型クラスター複合体Ag30’の結晶構造解析
※1:本研究は、東京大学・鈴木康介先生、山口和也先生との共同研究です。[1]
参考文献:
[1] K. Yonesato, D. Yanai, S. Yamazoe, T. Kikuchi, K. Yamaguchi, K. Suzuki: Surface-exposed silver nanoclusters inside molecular metal oxide cavities, Nat. Chem. 15 (2023) 940–947. doi: 10.1038/s41557-023-01234-w
推奨装置・ソフトウェア
- 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
- 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro