アプリケーションノート B-SCX1017
はじめに
危険ドラッグは、試料が少量しか得られないことも多く、NMRや質量分析法での構造決定には困難が伴います。結晶スポンジ法[1]を用いた単結晶X線構造解析により、固体・液体を問わずに、μgスケールの試料から迅速で確実な構造決定を行うことが可能です。本稿では、合成カンナビノイド類に属する危険ドラッグ成分のうち、液体試料を含む6種類の構造解析を行った例を紹介します。細孔性ネットワーク錯体(MOF)の結晶に包接させることで、それぞれ数μgの試料からその分子構造を直接決定しました。本研究は、理化学研究所・瀬戸康雄先生との共同研究です。[2]
測定・解析例
結晶スポンジ※11粒を、n-ヘキサン50 μLとともに2 mLのHPLC用高回収バイアルに取り出しました。これに5F-BZO-POXIZID※2(1 μg)を溶解した1,2-ジメトキシエタン溶液(1 μL)を加えて蓋を締め、蓋にシリンジ針を刺して穴を開けました。溶媒が完全に揮発するまで室温で静置した後、結晶スポンジを取り出してXtaLAB Synergy-DW (Cu Kα)にマウントし、測定温度100 Kで回折データを収集しました。CrysAlisProを用いて回折データを処理し、Olex2およびSHELXを用いて構造解析を実施しました。
5F-BZO-POXIZID包接結晶の構造解析を実施したところ、結晶スポンジの結晶格子の空孔内に、5F-BZO-POXIZIDの分子が整列している様子が見られました(図1)。わずか1 μgという微量のサンプルから、危険ドラッグ成分の分子構造を直接決定できました。
図1: 危険ドラッグ成分5F-BZO-POXIZIDの結晶構造解析
結晶スポンジ法においては、結晶スポンジに試料分子を取り込ませるソーキングの条件を、分析対象ごとに検討して最適化する必要があり、これに大きな労力がかかることがあります。しかし今回、分子構造が5F-BZO-POXIZIDに類似した5種類の合成カンナビノイド化合物について、ほぼ同じソーキング条件を用いることで、数μgの試料からの構造決定に成功しました(図2)。合成カンナビノイドは共通した部分構造や官能基を有することが多いため、ひとつの化合物の包接条件を見出すことで、類縁体にも同様の条件を適用し、複数の試料を短時間で構造決定できる可能性が高まります。また、5種類のうちJWH-424※3は室温で油状の液体化合物であり、そのままでは単結晶試料を作製することが困難です。結晶スポンジ法を用いることで、このような液体試料であっても結晶構造解析が可能となります。
図2: 合成カンナビノイド類5種の結晶構造解析
※1:[(ZnCl2)3(tpt)2(n-hexane)n]x(tpt = 2,4,6-tris(4-pyridyl)-1,3,5-triazine)
※2:N-[(Z)-[1-(5-Fluoropentyl)-2-oxo-indolin-3-ylidene]amino]benzamid
※3:(8-Bromonaphthalen-1-yl)(1-pentyl-1H-indol-3-yl)methanone
参考文献:
[1] Y. Inokuma, S.Yoshioka, J. Ariyoshi, T. Arai, Y. Hitora, K. Takada, S. Matsunaga, K.Rissanen, M. Fujita: X-ray analysis on the nanogram to microgram scale usingporous complexes, Nature495(2013) 461–466. doi:10.1038/nature11990
[2] S. Watanabe, T.Kikuchi, T. Iwai, R. Matsushita, M. Takatsu, S. Honda, T. Nakanishi, Y.Nakamura, Y. Seto: Single crystal X-ray analysis using the crystalline spongemethod for direct structure determination of new and earlier syntheticcannabinoids including OXIZIDs, AKB48, and JWH-424 from a trace sample, ForensicChem.33(2023) 100480. doi:10.1016/j.forc.2023.100480
推奨装置・ソフトウェア
- 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
- 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro