アプリケーションノート B-SCX1015
はじめに
医薬品や機能性食品、農薬などの効能や安全性を担保するためには、生理活性物質の絶対構造(キラリティ)を確実に決定することが必要です。単結晶X線構造解析は、分子の絶対構造を確実に決定できる手法として広く使われていますが、できるだけ多くの反射データを収集する必要があるため、長時間の測定が必要でした。XtaLAB Synergyシリーズでは、CrysAlisᴾʳᵒを用いた最適な測定スケジュールの計算により、必要な反射データを短時間で効率よく収集し、絶対構造を精度よく判定することができます。同一結晶に対して3種類の測定スケジュールを用いて測定を行うことで、どの測定方法が最も精度よく絶対構造を判定できるか比較しました。
測定・解析例
テスト試料として、大きさ0.046 x 0.030 x 0.014 mm³のシチジン結晶(リガク標準試料:C₉H₁₃N₃O₅)を用い、検出器にHyPix-6000HEを搭載したXtaLAB Synergy-S(Cu Kα線源)を使って測定を実施しました。測定スケジュールは以下の3通りの方法を使用しました。
-
9 runs※1の測定を5回繰り返し、全45 runsの測定を実施。
-
9 runsの測定を、露光時間を1.の場合の5倍にして実施。
-
CrysAlisᴾʳᵒのストラテジー機能を用いて測定スケジュールを計算(全26 runs)。
トータルの測定時間は、いずれのスケジュールも約3時間で、ほぼ同等となっています。なお、スケジュール1, 2は、リガクの従来のソフトウェアで用いられていた測定スケジュールを想定したものです。
各測定法による測定の結果を表1および図1に示します。回折強度を示すMean I/σはスケジュール1、等価反射の一致度を表すRint※2はスケジュール2が最も良い値を示していますが、いずれのスケジュールでも信頼性の高い構造解析に十分な質の反射データが収集できています。一方、最終的な構造解析結果の質を表すR1およびwR2※3の値は、いずれもスケジュール3が最も良い値を示しています。CrysAlisᴾʳᵒを用いた最適スケジュールの計算により可能な限り測定反射数を増やした結果、精度の高い構造解析が可能な回折データを得ることができました。
また、絶対構造判定については、スケジュール3でのみ十分な精度をもって実施できました。絶対構造判定の精度を担保するためには、基準となるFlackパラメーターの値が0に近く、かつその標準偏差がおおよそ0.2以下である必要があります。スケジュール1, 2ではいずれもFlackパラメーターの標準偏差が0.2を上回っており、この結果から絶対構造を判定することはできません。一方、スケジュール3では、Flackパラメーターの値が十分に0に近く、かつ標準偏差が0.2を下回っていることから、正しく絶対配置が判定できたといえます。CrysAlisᴾʳᵒを用いた最適スケジュール計算により、精度の高い絶対構造判定が可能な反射データを効率的に収集することができました。
表1: 3つのスケジュールによる測定結果の比較
図1: 3つのスケジュールによる測定結果の結晶学的統計値の比較
※1:ここでは、結晶をゴニオメーター上のある方位(κ、φ)に固定してゴニオメーターのω軸をスキャンする1回の操作を”run”と呼んでいます。各runで結晶の方位(κ、φ)を変えています。
※2:Rintは、結晶学的に等価な回折X線の強度の一致度を表しています。0%に近いほど良質な回折データとなります。
※3:R₁は、結晶構造モデルから計算される回折強度と、実際に測定された回折強度の一致度を表しています。wR₂は、回折強度の大きさによる重みづけを行ったうえで、同様の計算を行ったものです。いずれも、0%に近いほど信頼性の高い構造解析データとなります。
推奨装置・ソフトウェア
- 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
- 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisᴾʳᵒ