最新型SC-XRDシステムによる極微小結晶の構造解析

アプリケーションノート B-SCX1013

はじめに

単結晶X線回折法 (SC-XRD)を用いて結晶構造および分子構造を決定する重要性は医薬品、食品、農薬、材料開発等の分野で広く認知されています。しかし従来のSC-XRDシステムにおいては、50 µm以上の大きく良質な結晶が必要であるとされてきました。一方で電子回折法(ED)は、より小さなナノメートルサイズの結晶からも結晶構造解析が可能な手法として知られていますが、電子線と物質との強い相互作用のため、厚さが0.5 µmを超える結晶の測定は困難です。このように、従来のSC-XRDシステムとEDシステムの間には、測定に使用できる結晶のサイズに“ギャップ”が存在しています。

図1: 従来のSC-XRDシステムとEDシステムの比較図1: 従来のSC-XRDシステムとEDシステムの比較

そこで今回は、最新型ラボ装置を用いることで、従来のSC-XRDシステムとEDシステムの間に存在する結晶サイズの“ギャップ”を埋めることが可能かを検証しました。

図2: 従来のSC-XRDシステムとEDシステムとのギャップ図2: 従来のSC-XRDシステムとEDシステムとのギャップ

測定・解析例

単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズに標準搭載されているソフトウェア“単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro”では、構造解析に必要な最低限のデータの収集を行うと同時に、並行して構造解析を自動で行う高速自動構造解析ツール“What is this?”(WIT)を使用することが可能です。

図3: 高速自動構造解析ツール“What is this?”(WIT)図3: 高速自動構造解析ツール“What is this?”(WIT)

今回は3×2×1 µm³のアセトアミノフェン結晶を、最新型X線源および検出器が組み込まれた“XtaLAB SynergyCustom FR-X with HyPix-Arc 150º”を用いて測定しました。WITによる未知構造決定のための自動測定および解析を行った結果、従来のSC-XRDシステムでは測定が困難なサイズにもかかわらず、約30分という短い時間で自動測定が終了しました。また本測定結果より、自動構造解析にてアセトアミノフェン分子の構造も得ることができました。

図4: 測定サンプルおよびWITによる測定結果の概要図4: 測定サンプルおよびWITによる測定結果の概要

次に、論文投稿が可能となるレベルのデータを取得するため、同一結晶にて本測定および構造解析を実施しました。14時間程度の測定にて、R₁値5.80%の良好な構造解析結果が得られました。併せて“checkCIF※1”を用いた構造解析結果の検証をしたところ、極微小結晶であっても、重大な欠陥(Alert A)や深刻な問題(Alert B)がない、良好な構造解析結果が得られていることが確認できました。
※1 国際結晶学連合(IUCr)が定める構造解析の基準を満たしているか判定するサービス(https://checkcif.iucr.org/)

図5: 同一結晶にて実施した本測定および構造解析結果の概要図5: 同一結晶にて実施した本測定および構造解析結果の概要

3×2×1 µm³のアセトアミノフェン結晶を用いた測定例により、従来は測定・解析が困難とされていた粉末状の極微小結晶からも、正確性の高い構造を得られることが明らかとなりました。この結果より、最新型SC-XRDシステムを用いることで、従来のSC-XRDシステムとEDシステムとの間に存在した結晶サイズにおける“ギャップ”の大部分を埋めつつあることが証明されました。

図6: 最新型SC-XRDシステムにより埋められた結晶サイズのギャップ1図6: 最新型SC-XRDシステムにより埋められた結晶サイズのギャップ2図6: 最新型SC-XRDシステムにより埋められた結晶サイズのギャップ

推奨装置・ソフトウェア

  • 単結晶X線構造解析装置 XtaLAB Synergyシリーズ
  • 超高輝度X線発生装置 FR-X
  • 湾曲ハイブリッドピクセル検出器 HyPix-Arc150º
  • 試料吹付温調装置
  • 単結晶構造解析 統合プラットフォーム CrysAlisPro

お問い合わせ

製品選びから据付後の技術サービスまで、何でもお気軽にお問い合わせください。