世界のリガク Vol.5

Rigaku Battery Forum ― 欧州の技術者と語り合う、バッテリーの今と未来
こんにちは。リガク バッテリーマーケットチームのリーダーの白又 勇士と申します。先日、Rigaku Europe SE(ドイツ・ノイイーゼンブルク)主催の「Rigaku Battery Forum 2025」に参加してきました。欧州の研究者や技術者と直に意見交換し、最新の分析技術やバッテリー開発について触れることができた、非常に刺激的な2日間となりました。
Rigaku Battery Forumとは
2025年6月24~25日に、Rigaku Europe SE(ドイツ・ノイ イーゼンブルク)主催の「Rigaku Battery Forum 2025」が開催されました。このイベントは、バッテリー業界向けのフォーラムで、次世代バッテリー技術と分析手法に関する知見を共有する場として企画され、ドイツをはじめとする欧州各地の研究機関・大学・企業から45名の専門家たちが集結しました。
材料開発、製造技術、品質管理、リサイクルなど業界の最前線に立つ専門家たちが熱のこもった講演を行いました。参加者の方たちによる講演が行われ、リガクも技術講演と各種装置のデモンストレーションを実施。私は、XRDの技術講演とSmartLabをはじめとする装置の紹介を担当しました。
発表する白又(左側)とRigaku Europe SEのDr.Stephan(右側)
Day1とDay2それぞれの注目ポイントをご紹介します。
Day1:材料開発とサステナビリティを中心に
初日は、バッテリー材料の最新動向とサステナビリティを中心に議論が展開されました。
冒頭では、P3 Automotive社のMichael Strobel氏が、欧州が中国依存から脱却し、独自のバッテリーバリューチェーンを構築する重要性について語りました。その内容は、単なる技術開発だけでなく、経済安全保障や地域戦略にまで視野が広がるもので、非常に示唆に富んでいました。
続いて、Darmstadt工科大学のAnke Weidenkaff教授が、「サステナビリティは製品設計の最初から考えるべきものだ」と強調。循環経済の視点が開発現場に求められていることを強く実感しました。
午後には、Evonik社のDr.Franz氏、10‑9 Nano Siceince&Consulting社のDr.Gelad氏などによるバッテリー分析事例の紹介や、リサイクル材料の分析に関する実践的なセッションも行われ、XRDやXRF、電子回折などリガク技術が“活きる”シーンが数多く紹介されました。
リガクの分析技術に対する信頼と、現場に根付く評価を改めて感じることができ、大変うれしく思いました。
初日はRigaku Europeのラボ施設でのツアーも実施されました。実機によるデモンストレーションを交えながら最新技術が紹介され、参加者の方たちが実際に操作や解析画面を興味深く見られているのが印象的でした。
私自身も、マーケティングを担う立場として、ユーザー目線での期待や課題を直接うかがえた貴重な機会でした。
Day2:次世代バッテリーと製造プロセスの革新
2日目はより実践的なテーマへ。リチウム硫黄電池や固体電解質などの次世代材料技術、そしてそれを支える製造技術に焦点が当てられました。
Helmholtz-Zentrum Berlin研究機構のDr.Rafael Müller氏がオペランド解析の紹介をされており、その先進的な取り組みに驚かされました。また、Theion社のDr.Ulrich Ehmes氏は、リチウム硫黄電池の量産化スケールでの製造事例について紹介されました。まさに「ラボから産業へ」と、実用化への可能性を感じる最前線の技術と言えるものでした。
また、個人的に印象深かったのは、Fraunhofer IIS研究所のDr.Patrick氏やKarlsruhe工科大学のFlorian氏による講演です。製造現場での検査・欠陥検出において、リガクのX線CT技術がどのように貢献しているのかを実用例とともに紹介されていて、CT技術の産業的価値と、製造品質の可視化・最適化に向けた有効性が示されました。
フォーラムを通じて得た学びと手応え
2日間のフォーラムを通じて、以下のような重要なメッセージを得ることができました。
・材料開発・製造・分析が横断的に連携することで、イノベーションは飛躍的に加速する。
・設計段階からサステナビリティを考慮することが、真の循環型社会への鍵となる。
・XRD、XRF、CT、電子回折などの分析技術は、次世代バッテリー開発に不可欠なツールである。
・国際的な視点とネットワークが、より強固な技術基盤の構築を可能にする。
また、リガクは環境負荷低減にも配慮し、会場移動や宿泊など、本イベントによるCO₂排出(約10〜15トン)をカーボンクレジットで相殺する取り組みを実施しました。2030年までにCO₂排出量を半減するという長期的な目標に向けた一歩でもあります。サステナビリティは、語るだけでなく「行動すること」が重要だという姿勢を、私自身も再確認しました。
今後に向けて
リガクは、今後もバッテリー技術における最新情報と革新的な分析ソリューションを世界に向けて発信してまいります。来年以降も、より多くの専門家の皆様と交流・議論できる機会を設ける予定です。
最後に
このフォーラムは、単なる情報交換の場ではなく、「未来を一緒につくる」感覚を共有する貴重な機会でした。そして「分析機器は単なるツールではなく、イノベーションを共に生み出すパートナーになり得る」ということを改めて強く実感しました。
欧州の技術者の方々と直接対話を重ねる中で、日本とは異なる課題意識や期待に触れ、多くの学びを得ることができました。
今回得た経験と知見を今後の装置開発にしっかりと活かし、次世代バッテリーの発展に少しでも貢献できればと思います。
<カーボンクレジットとは?>
カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出削減量を「クレジット(排出枠)」として数値化・取引可能にした仕組みです。企業や団体が自らの活動で排出したCO₂などの温室効果ガスについて、植林や再生可能エネルギー導入など、他の場所での削減・吸収活動によって「実質的に相殺(オフセット)」することができます。
リガクは、環境保護への取り組みの一環として、2030年までのCO2排出量50%削減を目指し、グループ全体で積極的に取り組んでいます。その取り組みの成果が認められ、2024年、カーライルグループ約300社の中から持続可能性向上において顕著な成果を示した企業に与えられるFast Mover Awardを受賞。副賞として、南米エクアドルの「Pichacayプロジェクト※」から購入したカーボンクレジットを受け取りました。今回のRigaku Battery Forum 2025では、参加者の移動や宿泊などによって発生した推定10~15トンのCO₂排出量このカーボンクレジット購入によりオフセットしました。
このような取り組みは、イベントを運営する立場としての環境責任を果たすと同時に、サステナビリティを重視する企業姿勢の表れでもあります。今後ますます、企業活動における「カーボン・ニュートラル」の考え方が求められていく中、リガクも率先してその実現に貢献していきます。
※ Pichacayプロジェクト:都市ごみの分解からメタンを回収し、それを発電に利用する再生可能エネルギー事業です。この事業は、建設・保守分野のエンジニアの雇用機会の創出、メタン排出量の大幅な削減による大気質の改善、LFGの蓄積に伴う爆発リスクの低減など、地域の持続可能な開発を支援。排出削減プロジェクトの効果、モニタリング、監査が適切に行われていることを保証するVerified Carbon Standard(VCS)認証を取得しています。
※より詳細なイベント内容は、イベント公式サイト(英語)をご確認ください。
白又 勇士(Yuji Shiramata)
プロダクト本部
グローバルプロダクトマーケティング部
プロダクトマーケティング課
リガクに入社後、9年間にわたってXRDアプリケーションラボにて分析業務に従事し、その後2年間はXRDシステム設計部で設計業務を経験しました。現在はグローバルプロダクトマーケティング部にて、主にバッテリー市場を対象に、マーケティング活動およびプロダクト・アプリケーションの開発業務に携わっています。