NEX CG II による 医薬品の微量不純物の分析
はじめに
医薬品の原料に含まれる有害元素やその製造過程における残留触媒元素等の不純物を分析することは、リスクアセスメントの観点から重要です。
不純物の元素分析は、ICP-OES やICP-MS が多く利用されていますが、近年、試料処理の簡便さから蛍光X線分析(XRF)への関心が高まってきています。また、可能なかぎり微量元素が分析できるXRF装置への要望もあります。今回は偏光の原理を応用し、従来の蛍光X線分析装置と比べ、測定スペクトルのPB (Peak to Background) 比が優れた偏光光学系エネルギー分散型蛍光X線分析装置NEX CG IIを紹介します。
装置の特長
NEX CG IIの偏光光学系の特長について説明します。偏光光学系の模式図を図1に示します。一般の直接励起型のエネルギー分散型XRF装置と比べ、偏光光学系XRF装置ではX線管と試料の間に2次ターゲットを配置しています。その配置は互いに直交させています。
X線管から発生する励起X線(図1 ①)が2次ターゲットに照射されると、2次ターゲット材質に由来する特性X線と励起X線による散乱線が発生します(図1 ②)。偏光光学系EDXでは①と②が直交するように2次ターゲットが配置されており、ここで発生する特性X線と散乱線のうち散乱線のみが偏光を持つようになっています。これらのX線が試料に入射すると、偏光を持つ散乱線はほぼ試料に吸収され、検出器には届かなくなります。したがって、検出器には試料から発生する蛍光X線と2次ターゲットから発生した特性X線に由来する散乱線のみが計数されます(図1 ③)。
測定スペクトルのPB比を悪化させるバックグラウンドは、管球から発生する連続X線(散乱線)に起因しているため、偏光光学系方式では上記の理由でバックグラウンドを大きく減少させることができます。これにより、図2に示すように従来の直接励起型の光学系で得られる測定スペクトルと比べ、全エネルギー領域にわたってPB比の良い測定スペクトルが得られます。
スペクトルのPB比が良くなることで、測定精度が向上し、検出下限も低くなり、より微量の元素分析が可能となります。
図1 偏光光学系の模式図
①励起X線、②2次ターゲットの特性X線と励起X線による偏光散乱線、③試料から発生する蛍光X線と2次ターゲットに由来する散乱線
図2 偏光光学系と直接励起光学系の測定スペクトルの比較
NEX CG IIの2次ターゲット条件を表1に示します。広範囲のエネルギーにわたる測定元素に対して、5種類の2次ターゲットを切り替えて、目的の測定元素に対して最も励起効率のよい分析を行うことができます。すなわち、5つのX線管を搭載している装置と考えることができます。2次ターゲットのRX9は分光素子で、励起X線のPd L線を分光し、Pd Lα線の単色光として、試料を励起します。
また,X線管からの励起X線を直接試料に照射しないため、熱に弱く、反応性の高い医薬品試料でもX線によるダメージを与えることなく分析を行うことができます。
表1 NEX CG IIの光学系条件
NEX CG IIによる定性スペクトル
図3に有害元素分析例として、セルロース粉末に水銀(Hg)、鉛(Pb)、砒素(As)を添加した測定スペクトルを示します。ppmレベルの測定スペクトルが明確に得られています。
図3 水銀(Hg)、鉛(Pb)、砒素(As)の定性スペクトル
試料マトリックス:セルロース
検出下限
医薬品の不純物ガイドライン(Q3D)では経口製剤に対し、不純物元素の許容一日暴露量(permitted daily exposure : PDE)が設定されています。元素は毒性データ等に基づいてクラス分けがなされている。表2に経口製剤におけるクラス1 (カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、砒素(As)、水銀(Hg))、クラス2A (コバルト(Co)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni))の不純物とPDE、PDEを一日の投薬量10g、5g、1gでえ換算し許容濃度とNEX CG IIの検出下限をまとめました。ガイドライン規格値との比較からNEX CG IIは分析可能な性能を有していることがわかります。
表2 NEX CG IIの検出下限、不純物元素とPDE、各投与量における許容濃度
まとめ
NEX CG IIは偏光光学系を採用することで、全エネルギー領域において、低バックグラウンドを実現し、各元素において優れた検出下限を実現しました。また、医薬品の不純物ガイドラインにおいて必ず検査しなければならないクラス1、クラス2Aの7種の微量元素についても、NEX CG IIは分析可能な感度があることを示しました。