PEFC 電解質膜の TSC

Application Note B-TA3005

はじめに

固体高分子形燃料電池(PEFC)の電解質には固体高分子膜(イオン交換膜)が使用されています。この高分子膜の分子運動性はイオン伝導との相関が予想され、電池性能向上の一つのパラメータとして重要視されています。熱刺激電流(Thermally Stimulated Current, TSC)は高分子の分子運動による変化を電流として高感度に検出できるため、高分子緩和現象の評価に広く応用されています。ここではPEFCの電解質膜として使用されているパーフルオロスルホン酸ポリマーをTSCにて評価しました。

測定・解析例

図1(a)に示したTSC測定セットアップにてパーフルオロスルホン酸ポリマー試料を電界印加で分極し、そのまま冷却、その後昇温してTSCを確認しました。今回はスルホン酸部分についてH置換体とNa置換体の2種類の試料を用意し、それぞれ膜を乾燥させた状態と湿潤させた状態で測定を実施しており、その結果を図1(b)及び(c)に示しました。乾燥条件において、H置換体では-20℃付近に脱分極電流のピークが、Na置換体では0℃付近にピークがそれぞれ確認されました。Naイオンに置換したことによって、高温側にピークがシフトしています。一方で湿潤条件では、乾燥条件よりもピーク位置が大幅に低温側にシフトしました。膜中にH2Oが存在することで側鎖の運動性が促進されており、H2Oが可塑剤のような役割を果たしていると考えられます。今回確認された一連のTSCピークはパーフルオロスルホン酸ポリマーの側鎖末端のスルホン基の回転に関する運動であり[1]、この運動はカウンターイオンやH2Oの存在によってピーク位置が大きく変化します。このピークはスルホン基の状態を敏感にモニタできる指標として活用できます。

(a)TSC測定セットアップ、(b)乾燥条件のTSC、(c)湿潤条件のTSC

図1(a)TSC測定セットアップ、(b)乾燥条件のTSC、(c)湿潤条件のTSC

参考文献:[1] Tsonos, et. al., Journal of materials science 33(8) (1998) 2221–26.

推奨装置・推奨ソフトウェア

  • TS-POLARTS-FETT

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