アプリケーションノート B-TA4023
はじめに
布地の「暖かさ」「涼しさ」「着用時の快適性」は、素材や構造によって大きく左右されます。これらの体感差は、単なる繊維素材の違いだけでなく、布地内部における熱の伝わり方、すなわち熱伝導率の方向依存性に強く関係しています。布地は、繊維や糸が特定方向に配向した繊維集合体であり、厚さ方向と面内方向では熱の伝わりやすさが大きく異なります。そのため、従来の一方向のみの評価では、実際の使用感や製品性能を十分に反映できない場合があります。本アプリケーションレポートでは、繊維材料の配向構造に着目し、TRIDENTのMTPSとTPS Flexの両センサーを用いて、測定方向を考慮した熱伝導率の評価手法と、異方性を定量的に把握するための測定上のポイントについて紹介します。
測定・解析例
- 測定サンプル
市販の布地 - 使用装置
熱伝導率測定装置 TRIDENT
MTPSセンサー、TPS Flexセンサー(φ13:センサー直径約13mm)、TPS Anisotropy Utility(オプション) - 測定方法
MTPS:
センサーの直径φ18mm以上のサンプルサイズを確保し、センサー面に対して厚み方向の熱伝導率を測定。
TPS Flex:
センサー径(φ13mm)以上のサンプル厚みを確保し、センサー面に対して厚みと面内方向(TPS Anisotropy Utility)、および両面複合の3方位の熱伝導率の違いを測定。異方性測定条件に必要な容積比熱は、バルク法にて測定して得られた1.1747 MJ/(m3·K) を使用。
図1 TPS Anisotropy Utilityによる異方性評価
表1 TPS Flex とMTPSセンサーを用いた布地の熱伝導率測定結果
| 熱伝導率λ W/mK | ||||
| TPS Flex | MTPS* | |||
| TPS Anisotropy Utility | TPSバルク | |||
| 厚さ方向 Z |
面内方向 R |
面‐厚さ 合成 |
面‐厚さ 混合 |
厚さ方向 Z |
| λZ | λR | λZ,R Calc. | λZ,R | λZ |
| 0.0498 | 0.1430 | 0.0844 | 0.0854 | 0.0477 |
*MTPSはInsulation calibrationを使用
TPS Anisotropy Utilityによる異方性測定結果の信頼性を確認するため、異方性の合成熱伝導率λZR Calc.を以下の計算式にて算出し、同条件で行ったTPS Flexのバルク測定による面‐厚さ方向混合値の結果と比較しました。
λZR Calc. =$ \sqrt{(\lambda_Z * \lambda_R)} $
λz:厚さ方向の熱伝導率
λR:面方向の熱伝導率
λZR Calc.:λZとλRを合成した熱伝導率
布地の面方向と厚さ方向の熱伝導率には3倍近い明確な違いが観測され、その異方性が確認できました。 異方性測定から得られた厚さ方向の熱伝導率 λZ は、MTPSの厚さ方向の結果とも良く一致しています。さらに、異方性測定から得られた厚さ方向と面方向の結果から算出した合成値と、TPS Flexのバルク測定の混合値も良い一致が認められており、各測定法による結果の整合性が確認でき、繊維の面方向では多層のネットワーク構造を形成することでより高い値を示しています。
図2 TPSとTPS Flexセンサーを用いた測定セットアップ