アプリケーションノート B-TA1086
はじめに
カルバマゼピンは抗てんかん薬として広く知られる医薬品であり、複数の結晶多形(Form I–IV)を有する代表的なモデル化合物です。結晶多形は溶解性や安定性、バイオアベイラビリティに大きく影響するため、医薬品開発および品質評価において極めて重要な因子です。カルバマゼピンは加熱により、単純な固相転移ではなく、部分融解を介した再結晶化が進行することが知られており、示差走査熱量測定(DSC)では吸熱と発熱が連続して現れる複雑な熱挙動が観測されます。本アプリケーションでは、試料観察機能付きDSCとChromTA™(色彩熱分析)を組み合わせ、カルバマゼピンの多形転移挙動を、熱分析曲線および画像イメージに加えて試料外観色の変化とともに評価しました。
測定・解析例
測定には、試料観察ユニットを搭載したDSCを用い、試料にはカルバマゼピン粉末0.133mgを50mL/minの窒素ガス雰囲気下にて、昇温速度10°C/minに条件設定し、室温から200°Cまで加熱しました。測定中はDSCを取得すると同時に、試料表面を連続的にモニター撮影し、得られた画像データをChromTAにより解析しました。画像イメージから4種類の色空間データ(RGB、CMYK、HSVおよびL*a*b*)を算出し、温度および時間と同期させることで、熱イベントと外観(構造)変化の相関を評価しました。
図 1 試料観察DSCによるイメージ画像の解析
図1に、試料観察DSCによるイメージ画像の解析グラフを示します。出発サンプルのⅠ形結晶では175°C~180°Cにかけて吸発と発熱ピークが連続的に観測され、これはⅠ形結晶が融解後、即座に安定形であるⅢ形へ再結晶化を起こしたためと考えられます。さらに、190°C以降に観察された鋭い吸熱ピークはⅢ形結晶の融解に相当します。
図2に試料観察DSCによるイメージ画像の解析グラフに対比したChromTAによる色調変化の同期グラフを示します。ChromTA分析を用いることで、同時また連続して起こる融解や結晶化の開始および終了を明確に識別解析することが可能となり、この結果、Ⅰ形結晶の融解は176.3°Cで起こり、Ⅲ形への再結晶化は177.2°Cで開始し、180°Cで完了することがわかりました。また、192°C付近におけるCMYK色パラメータの顕著な変化はⅢ形結晶の融解に対応します。
カルバマゼピンのような多形転移系では、融解と再結晶化が短時間に連続して進行するため、DSC単独ではピークの帰属が困難となる場合があります。ChromTAでは、試料の透明化および白濁化といった視覚的変化を色彩情報として定量化することで、各熱イベントの物理的意味を明確に対応付けることが可能になります。
試料観察DSCとChromTAを組み合わせることで、カルバマゼピンの多形転移における融解、再結晶化、再融解の一連の挙動を、熱分析データと視覚情報の両面から評価することが可能となり、本手法は医薬品の結晶多形評価や品質管理において有用な手段となります。
図 2 DSC結果とChromTAによる色調変化(CMYK)の同期グラフ