セメント硬化体中の水の挙動
はじめに
水との混合比を変えて硬化させたポルトランドセメント硬化体について、DSCを使用してサンプル中の水のcooling過程での結晶化およびheating過程での融解を測定し比較しました。
測定・解析例
サンプルとして市販の普通ポルトランドセメント粉末と水を重量比100:65(W/C 65 %)、100:50(W/C 50 %)、100:35(W/C 35 %)にそれぞれ混合撹拌し、30日間水中で硬化させて作製しました。 硬化物から、約15mgをブロック状に切り出し、Al製シール容器に入れ測定しました。
図1 DSC測定結果(cooling過程)
図2 DSC測定結果(heating過程)
物質中の水は、物質と構造的な相互作用のある結合水(束縛水)と相互作用のない自由水として存在する場合があります。
結合水は、相互作用が強くcooling過程で結晶化(凍結)しない不凍水と、相互作用による影響が小さく自由水より低温側で結晶化する中間水に分類されます。
今回の測定結果では、cooling過程で、各サンプルとも-16℃、-25℃、-40℃付近に3個の発熱ピークが見られます。水の場合、自由水であっても過冷却により-15℃付近以下で結晶化することが知られており、-16℃付近のピークはセメント硬化体中の自由水による結晶化と考えられます。-25℃および-40℃のピークは中間水によるものと思われ、2つの温度域にピークが現れていることから、結合状態の異なる2種の中間水が存在することが推測されます。
各測定結果のピーク面積を、自由水と中間水に分離した値および自由水比率(自由水エネルギー/トータル)と中間水比率(中間水エネルギー/トータル)を計算した結果を表1に示します。 水分含有率が大きく(セメント含有率が小さく)なると、自由水比率が大きくなり中間水の比率が小さくなることがわかります。
表1 ピーク面積と自由水・中間水比率(cooling過程)
エネルギー J/g | W/C 35 % | W/C 50 % | W/C 65 % |
TOTAL | 10.84 | 20 | 35.15 |
自由水 | 1.62 | 4.6 | 18.57 |
中間水 ① | 3.8 | 7.05 | 5.26 |
② | 5.43 | 8.36 | 11.32 |
中間水合計 | 9.23 | 15.41 | 16.58 |
エネルギーに占める比率 % | |||
自由水 | 14.9 | 23 | 52.8 |
heating過程では、-30℃付近から0℃付近にブロードな吸熱ピークと連続したややシャープなピークが見られます。
低温側のピークは中間水、高温側のピークは自由水の融解によると考えられます。各ピーク面積および各ピーク面積から計算した自由水比率と中間水比率を表2に示します。
表2 ピーク面積と自由水・中間水比率(heating過程)
エネルギー J/g | W/C 35 % | W/C 50 % | W/C 65 % |
TOTAL | 10.79 | 20 | 35.3 |
自由水 | 3.39 | 8.57 | 17.18 |
中間水 | 7.4 | 11.44 | 18.12 |
エネルギーに占める比率 % | |||
自由水 | 14.9 | 23 | 52.8 |
中間水 | 68.6 | 57.2 | 51.3 |
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