ポリマーのガラス転移 冷却速度による変化

アプリケーションノート B-TA1065

はじめに

非晶質ポリマーのガラス転移は、DSCでベースラインのシフト(階段状変化)として検出されますが、昇温過程で吸熱ピークを伴って現れる場合があります。PET樹脂、エポキシ樹脂、フッ素ゴムについて、初回の昇温(1st.heating)のガラス転移とガラス転移温度域を通過する際の冷却条件を変えて再昇温した時のガラス転移を比較し、冷却速度とガラス転移の関係を検討しました。

測定・解析例

サンプルとしてPET 12mg、エポキシ樹脂 15mg、フッ素ゴム 30mgをAl製開放容器に入れたものを使用しました。昇温速度10℃/minで測定(1st.heating)し、PETの場合は、20℃/minおよび2℃/minで冷却後、エポキシ樹脂およびフッ素ゴムについては、2℃/minで冷却後、それぞれ10℃/minで再昇温して行いました。

B-TA1065_DSC-results 図 1 DSC測定結果

PETの測定結果では75℃付近にガラス転移によるベースラインのシフトが見られますが、1st.heating及び2℃/min冷却後の結果では、吸熱ピークが見られます。ガラス状態は、本来その温度域では結晶化して結晶性固体として存在すべきものが、過冷却液体から分子運動が凍結された非平衡状態(非晶質固体)となる過程と考えることができます。

この非平衡状態は、平衡状態に比べて過剰なエネルギー(エンタルピー)を持っており、昇温過程で緩和されるため吸熱ピークを伴ったガラス転移となります。この現象はエンタルピー緩和と呼ばれ、サンプルの物性と冷却過程でガラス転移温度域を通過する速度(冷却速度)およびガラス転移温度以下に保持された時間等の熱履歴に依存して変化します。

PETの測定結果で見られた1st.heatingの結果からは、このサンプルがガラス転移温度以下に長期間保存されていたことが推測され、また、20℃/min冷却後の結果および2℃/min冷却後の結果からは、冷却時の冷却速度が小さいほどエンタルピー緩和による吸熱ピークが大きくなることがわかります。硬化したエポキシ樹脂では、2℃/minの冷却後の昇温でも吸熱ピークは見られず、エンタルピー緩和がほとんどないことがわかります。フッ素ゴムの場合では、2℃/minの冷却後の昇温で-8℃付近にわずかに吸熱ピークが認められ、エンタルピー緩和によるものと考えられます。

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