アプリケーションノート B-SCX1012
はじめに
温度変化に伴い結晶構造に変化が生じる現象(相転移)は広く知られており、X線を用いた単結晶構造解析にて、相転移前後の結晶構造を解析した例が多く報告されています。しかし、X線を用いた単結晶構造解析を実施する際は、一般に数十 µmから200 µm程度のサイズを有した単結晶を用意する必要があり、結晶を大きく成長させることの難しさから、本手法の利用を諦めるケースも多く存在しています。そこで今回は、電子線を線源に用いることでサブミクロン結晶に対して単結晶構造解析を可能とした“電子回折プラットフォーム XtaLAB Synergy-ED”を用い、極微小結晶に生じた温度変化に伴う結晶構造の変化を確認しました。
測定・解析例
測定対象試料には190 Kにて相転移が生じると報告されている [Ru(bpy)3](PF6)2を用いました[1]。図1のTEM像に示した極微小な単結晶に対し、室温条件(293 K)および低温条件(100 K以下)での測定をそれぞれ実施し、結晶学データおよび結晶構造の確認を行いました。

図1: 測定対象結晶のTEM像
図2に室温条件での測定にて得られた結晶構造と結晶学データ、図3に低温条件での測定にて得られた結晶構造と結晶学データを示します。温度変化の前後で、格子定数をはじめとする結晶学データの変化が確認されました。加えて、解析にて得られた結晶構造から、相転移に伴いヘキサフルオロリン酸イオン(PF6-)の位置が僅かに変化していることが確認されました。
2結晶の
結晶構造(c軸投影)と結晶学データ](https://rigaku.com/hs-fs/hubfs/2024%20Rigaku%20Global%20Site/Resource%20Hub/Applications%20Library/Crystallography/B-SCX1012_fig2_jp.png?width=800&height=362&name=B-SCX1012_fig2_jp.png)
図2: 室温条件での測定にて得られた [Ru(bpy)3](PF6)2 結晶の
結晶構造(c軸投影)と結晶学データ
2結晶の
結晶構造(c軸投影)と結晶学データ](https://rigaku.com/hs-fs/hubfs/2024%20Rigaku%20Global%20Site/Resource%20Hub/Applications%20Library/Crystallography/B-SCX1012_fig3_jp.png?width=800&height=362&name=B-SCX1012_fig3_jp.png)
図3: 低温条件での測定にて得られた [Ru(bpy)3](PF6)2 結晶の
結晶構造(c軸投影)と結晶学データ
参考文献
[1] M. Biner, H. B. Buergi, A. Ludi, C. Roehr: J. Am. Chem. Soc. 114(1992) 5197–5203.
推奨装置・ソフトウェア
- 電子回折統合プラットフォーム XtaLAB Synergy-ED
- 高傾斜試料冷却ホルダー
- クライオトランスファーホルダー(GATAN社製)
- 単結晶構造解析統合プラットフォーム CrysAlisPro for ED