概要:
第7回ではディスオーダーとはどういう現象なのか、どのような種類が存在するかについて紹介します。
前半は構造解析ソフトウェアOlex2を用いての、ディスオーダー構造の精密化法について説明し、補助的な役割を果たす束縛命令について説明していきます。
後半では、構造モデルを置くことが困難なほど、乱れた溶媒の扱いについて説明を行います。Olex2のデモデータを使用した説明もありますので、実際にソフトで操作しながらご視聴いただくとより理解が深まるでしょう!
Q&A:
Q1 : エチル基のディスオーダー処理で、メチル基を2パートに分けられていますが、メチレン部もパート分けしないと水素原子の角度が正確ではないと思います。しかし、実際に精密化を行うと全く同じ座標に炭素原子を配置することができませんでした。こういった問題にはどのように対処されていますか?
A: エチル基のディスオーダー処理でメチル基を2つに分けた後、Olex2のAdd H機能で水素を付加すると、メチレン部の炭素原子に付く水素原子は自動的に2つのパートに分けて付加されます。そのため、メチレン部の炭素原子がディスオーダーしていないのであれば、それを2つに分ける必要はありません。
Q2 : 例えばA, Bの二種類からなるディスオーダーが見られた場合、Olex2上でAとBの占有率はそれぞれどのように決定すればよいですか?
A: 本講座の第7回のP25にあるSplit機能を使用すると2つのパートの占有率の合計が100%になるように自動で占有率を割り振ってくれます。 Split機能を使用するのが難しい場合などは、2つのパートに分かれるようにPART番号をそれぞれ割り振り、各PARTの分子を右クリックしてOccupancyをカスタムで設定します。この時、片方は21、もう片方は-21と記入します。21は2番目のFVARの数値を×1の値で使用するということを意味し、もう片方の分子の占有率は100%から引いてあげればよいので-21というように表記をします。その後、右上のペンと青丸アイコンをクリックした後、FVARの初期値を任意で入力し、精密化をすることで各PARTの占有率が計算されます。
Q3 : ディスオーダーの先にディスオーダーが存在するとき、PART分けは階層的に設定することはできるのでしょうか?
A: PART分けを階層的に設定することはできないため、PART1, 2, 3と順にディスオーダーのPART分けをしていただくしかありません。しかし、異なるPART番号に設定した原子間には結合が表示されません。本来あるべき結合を表示させるためには該当の2つの原子をクリックして選択し、右クリックでBonds→Create bondを押すと結合が作成されます。
Q4 : ヘキサン3分子のディスオーダーにおいて、FVAR1にもともと記載されている数値は何を表していますか
A: FVARの1番目の数字にはスケール因子が表示されています。この枠はSHELXLにより予約されているために使用することはできません。2番目からお使いください。
Q5 : 対称中心にあるシアノ基のCとNのディスオーダーは、どのように指定すればよいでしょうか。
A: シアノ基のCとNの真ん中に対称中心がある場合と想定して回答いたします。この場合は、対称操作で分子を展開するとCとNが非常に近接またはほぼ同じ座標に位置することが想定されます。したがって、1つだけ原子を置き、CとNが50%ずつ存在する置換型のディスオーダーとして解析を行うのが妥当です。
Q6 : 精密化の途中にディスオーダーのsplit などで温度因子が非正値(non-positive value)になったまま正常な温度因子に復帰しなくなることがよくあります。そうなりやすい原因や典型的な対処法はありますでしょうか。
A: ディスオーダー処理で分子をいくつかに分けると、各PARTの原子ひとつあたりの占有率が小さくなるため、温度因子がネガティブになることがあります。このような場合は、SIMUやRIGUなどの束縛命令を用いて対処してください。
Q7 : 等方性温度因子でdisorder処理を行いR値が十分小さくなったものの、異方性温度因子に変更するとPART分けした比率が小さい方の分子の温度因子が大きくなってしまうことがありました。disorder処理が間違っているのでしょうか。
A: 占有率が小さい原子を異方性温度因子にすると、電子密度の広がりが大きいために温度因子が大きくなってしまうことがあります。この場合もSIMUやRIGUなどの束縛命令を用いて対処してください。
Q8 : 結晶スポンジ等において、フレキシブルな官能基が溶媒領域中でランダムに運動しており、電子密度マップがほとんど見えない場合、その部分の構造は置かないままにしておくのが良いのでしょうか。あるいは、束縛を用いて無理やりにでも想定構造を置くべきでしょうか。
A: 目的に応じた対応をします。例えば目的化合物の構造が見えればよいのであれば、見えない部分の構造はそのままにしてモデルを構築しない、またはsolvent mask等で処理する選択肢もあります。逆にすべての構造を明らかにしたい場合には、剛体モデルを使用するなどして、無理やりにでも構造モデルを作ります。結晶スポンジ法により絶対構造を決めたい場合には、solvent mask等の使用は推奨されません。
Q9 : 束縛命令の長さは何を基準に設定するのですか?
A: DFIXなどの原子間の距離を束縛する際には、教科書などに記載されている各原子間の距離を調べて、その数値を元に束縛命令を使用します。
Q10 : ディスオーダーにおけるPART分けで、正の値と負の値の使い分けはありますか?
A: 基本的には正のPARTを使用します。ただし、本講座の第7回のP39にあるような、特殊位置近傍のディスオーダーの際には負のPARTを使用します。特殊位置近傍にある分子は対称操作で展開した自分自身と結合を持ってしまうため、それを防ぐために負のPARTを使用します。
