概要:
第4回では質の良いデータを得るための測定条件とデータ処理について説明します。単結晶X線構造解析を成功させるためには良い単結晶を選び、質の良いデータを取ることが重要です。
前半は質の良いデータを取るためには何に注意すべきか、関連するパラメーターと共に説明します。
後半ではCrysAlisProにおけるデータ処理と結果の見方、チェックすべきポイントについて説明します。さらに、データ処理後に行う補正(Finalize)などのやり方についても説明します。Offline版のCrysAlisProを操作しながらご視聴いただくとより理解が深まるでしょう!
Q&A:
Q1: ストラテジーの振動角の設定において、現在の設定だとスポットがどの程度重なるかを事前に判断することはできますか?Scan widthを0.25にした方がよい目安はありますか?例えば格子長やどこかのログを確認するとか
A: 予備測定を実施した後に出てくるストラテジー決定画面を閉じて、予備測定で観測された回折スポットを確認します。その際にCrysAlisPro下部の2Dと書かれたボタンを押し、近接する複数のスポットに線を引くとグラフとしてピークが見えますため各ピークの山と谷が分かれているかをご確認ください。もしピークが近接して分かれていない場合、振動角のほかに検出器距離を離す、オプションにはなりますがbeam divergence slitを絞ってビームの発散角を抑える方法があります。
Q2: X線で化学反応が進行してしまう場合、露光時間を増やすことはは反対に悪い結果を与えてしまうと思います。そういった場合の露光時間の決定戦略はどのようにお考えですか?
A: 化学反応の速度にもよりますが、できる限り大きな結晶を選び、反応が進む前にスピーディーに測定することを推奨いたします。また、吸収の小さいMo線源を使うことも有効な場合があります。X線ではなく光に反応する場合においては、装置前面の窓を塞ぐことで遮光し測定時にライトがつかないように設定して測定することで、光反応を抑制できます。
Q3: 露光時間を長くするほど良い結果が得られるのは理解しましたが、検出器側の飽和も起こりうると思います。その部分についても解説をお願いします。
A: 現行のSynergyシリーズでは半導体検出器のHyPixシリーズが搭載されています。半導体検出器はダイナミックレンジが広いため、CCD検出器等と異なり飽和が起こることはまずないと考えていただいて結構です。
Q4: 追加測定の手順を教えてください。
A: 前提として、測定後の結晶を装置から下ろさずにそのままにしておく必要があります。CrysAlisPro右上のStart/Stopを押し、Append data collectionを選択するとストラテジー決定画面が表示されます。Calculate new strategyを押して、各種条件設定をすることで追加測定が可能です。
Q5: 分解能について、普段の測定では、高角度側は後でResolution limitをかけれるので、0.76程度まで測定することが多いのですが、論文投稿に必要なResolution、例えば0.83までの角度のデータを露光時間を長くして測定するのと、0.76程度のより高角度側までデータをとるのではどちらを優先すべきですか。
A: 強度を取ることが大事であるため0.83までの範囲で露光時間を長くして測定することを推奨します。もし不安でしたら0.80までの角度範囲の測定でも良いでしょう。一方で、反射数が少ない無機結晶などの場合はパラメータ数が少なくなってしまうことが考えらえるため、0.76程度の角度範囲まで測定を行い、多くの反射を得ることを推奨いたします。
Q6: 28枚目のスライドの回折像を示した円はなぜ真円ではないのでしょうか?
A: 検出器の前面が平面であり、またビーム中心と検出器の中心は一致していないため、分解能を示すリングは真円ではなく楕円形となります。
Q7: ご講演ありがとうございます。 聞き逃していたかもしれないのですが、I/σのσの具体的な算出方法を教えていただけないでしょうか。X線の統計変動から計算(強度と露光時間が変数?)していたのではなかったかとなと思いますが、記憶違いかもしれませんので教えていただけるとありがたいです。
A: σはピーク周りのバックグラウンド(ノイズ)強度の標準偏差となります。また、等価反射が複数観測されている場合は、それらをマージすることでσも統計的に処理された値となっています。
Q8: CrysAlisのデータの自動処理ではフィルターの設定なども測定の質に応じてフィルターなどの設定もしているのでしょうか。
A: 測定後のデータをCrysAlisProがで自動でデータ処理をした際には吸収補正やスケーリングの補正を測定データに応じて自動的に実行しています。しかし、Rintフィルターなどのフィルターは自分で設定する必要があります。
Q9: 複数の結晶を準備し、それぞれスクリーニング/予備測定して本測定する結晶を選定したのち、その結晶をセットしなおしてから本測定までの手順として、再度スクリーニング/予備測定は必須でしょうか?
A: 一度結晶を取り換えると結晶の向きが変わってしまうため、スクリーニング/予備測定から再度測定を実施する必要があります。
Q10: 本測定でStrategy parametersでResolutionを0.77に設定してほしい、と先生に言われるのですがこの数値は何を設定するものでしょうか?
A: 測定時の設定におけるResolution(分解能)は、どこまで検出器を外側に振り、どこの角度範囲2θまで測定をするかを決めるものです。ある回折角2θの値に対応する分解能の値はブラッグの式を変形したd=λ/2sinθで求めることができ、測定に掛かる最も小さな格子面間隔dを分解能として、Åの単位で表します。より高角のθ範囲まで測定することができればより高い分解能のデータを得ることができ、構造解析の精度が向上します。
