概要:
第3回では測定装置の説明と実際の測定の流れについて説明します。
前半は、X線源と装置の特徴について説明します。また、有機結晶や無機結晶などの結晶の種類や、絶対構造決定などの目的に応じてどのX線源や装置を選択すればよいかについてご紹介します。
後半では、ソフトウェアであるCrysAlisProを用いて実際の測定の流れと、その際に注意する点についてご紹介します。装置のPCの前で確認しながらご視聴いただくのも良いでしょう!
Q&A:
Q1: 電子密度から各原子の酸化数を同定することはできますか?
A: 電子密度から原子の酸化数を直接決定することは困難です。結合長等の情報から間接的に決定するか、他の分析手法を利用するしかありません。
Q2: 有機化合物の測定には Cu 線源が推奨とのことでしたが,有機低分子で絶対構造の判定が不要な場合において Mo 線源を使用する際のメリットや、Cu線源よりも有利な点などがありましたらご解説をお願いいたします。
A: Mo線源による測定では一枚の撮影でより多くの回折スポットを得られるため、全ての回折スポットを得るために必要な測定枚数が少なくて済みます。ただし、Synergyシリーズのような高速ゴニオメーターと半導体検出器を備えた装置の場合、1枚1枚の測定の間のラグタイムが最小化されており、測定枚数の差よりも線源強度の差の方が寄与が大きくなります。そのため、一般的には有機結晶の測定には線源強度が強いCu線源が推奨されます。X線照射による結晶へのダメージが大きい場合は、吸収の小さいMo線源を使用することで、結晶の劣化が抑えられることがあります。
Q3: 結晶のスクリーニングでオレンジ色メッセージで測定結果に問題が無い場合はどう解釈したら良いでしょうか?
A: オレンジ色のメッセージは得られた回折強度が少し弱いことを示していますので、測定時間が長くなる傾向があります。そのため、そのまま測定を行っても結晶構造が得られる可能性は高いですが、可能であればより質の高い結晶を拾い直すことで、測定時間の短縮とデータの質の向上が見込めます。
Q4: 普段のストラテジーの組み立て方は画面下部のグラフの赤い線が100になるまでトータルの時間を調整しているのですが、今回説明いただいたようにI/sigmaなど他のパラメータも重視したほうがいいでしょうか?
A: I/σを重視して十分な強度を取ることを推奨します。ただ、通常は自動でstrategyを組んでいただければ十分なcompleteness(下部グラフの赤いライン)が得られるだけの測定枚数と、十分なI/σが得られるだけの露光時間を設定できるようになっています。それに加え、絶対構造決定の際にはredundancyなどにも注意してストラテジーを組んでいただければと思います。
Q5: ご講演ありがとうございました。 回折強度が弱く、かつ放射線に対して弱い試料を測定する際の、ストラテジーの組み方について質問です。 Cu線源を用いた測定で、一度シークエンスを計算した後に、先に低角側を測定し、その後高角側を測定するような順番に組み替えることはできますでしょうか。 低角度側で初期位相解析ができる最低限の反射を優先しつつ、もし結晶が持つなら高角度側の反射も測定出来たらいいな、という意図があります。
A: ストラテジー決定画面において、「Manually Edit Run List」を開き、ウィンドウ右部にある「|T|」アイコンを押していただくと、Runを2θの大きい順・小さい順に並び変えることができます。並び変えた後に、「detector」の欄を確認して2θ順になっていることを確認した上で、「Colision?」ボタンを押して測定スケジュールに問題がないことを確認します。ウィンドウを閉じた後は、「Calculate new strategy」を押さずに、「Update completeness」を押してください。
Q6: スクリーニングの結果でQUALITYのところに記載されているI/sigとI/sigoの違いは何でしょうか?
A: I/sigは、観測された全ての反射を使ってI/σの平均値を計算したもの、I/sigoは、I>3sigmaを満たす強度の強い反射のみを使ってI/σの平均値を計算したものになります。
Q7: 終夜測定を行う際に,データ数を増やすために,枚数を増やすのと,照射時間を増やすのはどちらの方が有効でしょうか?
A: 枚数を増やすよりも、照射時間を増やして強度をたくさん取っていただくことをお勧めいたします。時間の許す限りI/σをいつもよりも高く設定して測定すると良いでしょう。
Q8: Experiment Strategyで単位格子の数値は50%以下であれば予備測定をやり直した方が良いのでしょうか?
A: スクリーニング測定の時点でindexの値が50%以下の場合、複数の結晶が貼り合わさった双晶である可能性が高いため、結晶を拾い直しての再測定をお勧めいたします。 スクリーニング時点ではindexの値が高かったにも関わらずストラテジー決定画面においてindexが50%以下になってしまう場合は、予備測定の結果から算出された晶系やブラべ格子が本来のものよりも対称性が高くなってしまったことが考えられます。対処法はストラテジー決定画面の右上のLattice Wizardを選択し、Peak huntingとUnit cell findingを押して本来の正しい晶系やブラべ格子になるようにしてください。その後Lattice Wizardの画面を閉じますと「新しい格子で再計算しますか?」という内容のウィンドウが出てくるため「はい」を選択すると新たなストラテジー決定画面が表示されます。
Q9: 振動角に関してあまり理解できておりませんが、パラメーターの設定値による装置としての動きの違い、それに対してデータがどのように変化するのか、ご教示いただけますでしょうか。
A: 振動角は1枚の回折イメージを測定する間に検出器を動かす角度を示しています。例えば、測定範囲10°を振動角0.5°で測定すると、20枚の測定をすることになります。振動角を0.25°にすれば、40枚の測定をすることになり、より細かくスライスしたデータを得ることができます。タンパク質結晶やツイン結晶などのように回折スポットが近接して重なり合う際に振動角を小さくすることで、二つの回折スポットの分離を良くすることが可能となります。また、無機結晶のように結晶性が極めて高い結晶の場合、スライスを細かく取ることで反射強度の積分精度が良くなります。一方、回折イメージの枚数が増加しますのでデータ処理に時間がかかるようになります(測定時間自体はほとんど変わりません)。
Q10: 有機化合物の絶対構造を決定したい場合に、測定する際に気を付けることはありますか? 結晶の質、ストラテジーの設定、確認すべき値など
A: 有機化合物の絶対構造を決定する際には、可能な限り質の高い結晶を拾うことを推奨します。ストラテジーについては、「Friedel mates are equivalent」のチェックを外したうえで、強度を十分に取り(>15)、redundancyが5以上になるように測定することを推奨いたします。
Q11: 絶対構造決定の際のストラテジー設定において、フリーデル対を100%近く測定する方法(カバー率を確認する方法)はありますか?"Friedel mates are equivalent"のチェックを外してCompleteness100%で測定しても、解析後のCIFで確認するとFriedel matesのカバー率が低い場合がある
A: Strategy画面で「Friedel mates are equivalent」のチェックを外して「Calculate New Strategy」ボタンでスケジュールを再計算した後、左下のグラフの赤ラインの数字でフリーデル対のcompletenessを確認することができます。テーブル表示にすることで、さらに分解能ごとの細かい情報を見ることができます。上記の質問と同様にredunduncyが高くなるように測定をすることでカバー率をさらに高くすることができます。 また、本測定後にStrategy通りのcompletenessが得られていない場合は、予備測定の時に想定していた空間群よりも実際の結晶の空間群の対称性が低くなっている可能性があります。このような場合、結晶を装置から下ろす前であれば、「Append data collection」を実施することで、正しい空間群に即した追加の測定を行うことができます。
Q12: 予備測定の結果、予備測定をやり直した方が良いと判断した場合、やり直そうとするとファイル名の作成からやり直しをしなければならなくなります。なにか良い方法はありますでしょうか?
A: 予備測定(Pre-experiment)まで実施した場合は、ファイル名の作成からやり直しをして頂くしかありません。
