単結晶X線構造解析シリーズ #2. 単結晶X線構造解析に必要な設備と手順

概要:

単結晶X線構造解析を実施するには、試料である単結晶を作製することから始まります。 第2回では低分子化合物の結晶化と、作製した結晶の整形とマウント方法について説明します。

前半は主な結晶化の方法を紹介し、その特徴や適用範囲について説明します。また、結晶化がうまくいかない際のコツについてもご紹介しています。 後半では、測定する前の準備として結晶の整形と結晶のマウントについて一連の流れを紹介します。質の良いデータに必要な良い結晶を選択する基準と、整形の方法、結晶のマウントに必要なツールについても紹介します。

Q&A:

Q1: 現在取り扱っている有機分子は対称性が高くて重原子を含んでいます。この分子について100Kで単結晶X線構造解析を行なおうと試みているのですが,これが数十度回転したような回転体が10%ほど存在しており,重原子の電子密度に引っ張られることもあってこの回転に由来するディスオーダーが解けなくて困っています。結晶の作成方法や測定時の吹き付け温度等で改善の余地があれば教えて頂きたいです。

A: 結晶作製の試行錯誤により解消できる可能性もありますが、解析で対処する方がよいように思われます。ディスオーダーモデルの構築が困難な場合は、Olex2のdisorder toolを使い、"SAME"コマンドを入れてモデル構築することで、低占有率のモデルでも置きやすくなります。必要に応じて、束縛命令を追加して精密化を行います。解析の際に空間群の対称性を落とすことで、ディスオーダーが解消される場合もあります。また、双晶のために重原子由来のゴーストピークが出現している可能性もありますので、双晶になっていないか検討します。それでも困難な場合はCheck CIFにてVRFを記入することをお勧めいたします。一般的に10%以下の占有率のディスオーダーはモデル構築することが困難であるためです。これらの詳しい手順は、本シリーズの後半で解説します。

 

Q2: 蒸気拡散法において、貧溶媒の方が沸点が高い場合も適用できますか?

A: 貧溶媒の方が沸点が高い場合について、本来は貧溶媒が目的試料溶液へと徐々に加わっていくのですが、貧溶媒は蒸発せず目的試料溶液が蒸発していくだけとなります。そのため、蒸気拡散法の系が不完全となり、結晶化がうまくいかない可能性が考えられます。このような場合は、試料溶液にあらかじめ貧溶媒を混ぜておくことで、徐々に良溶媒が揮発して貧溶媒の割合が高くなり、蒸気拡散と同じような効果を得ることができます。

 

Q3: 試料作製に用いたカミソリの刃は専用のものが発売されていますか?

A: 結晶を切断する際に使用したカミソリの刃は専用のものでなくて十分です。購入時に厚みの選択肢がある場合は薄い方を選ぶようにしてください。薄い刃の方が結晶へのダメージも少なく、顕微鏡で見やすくなります。

 

Q4: 10μm程度の単結晶を測定する場合はどのような装置が適しているでしょうか

A: 無機結晶の場合は、封入管線源のSynergy-Sでも測定可能な場合があります。有機結晶の場合は、ローター型X線源を搭載したSynergy-R以上の装置でないと測定が困難です。ただし、X線照射に強く長時間の測定が可能な結晶であればSynergy-Sで測定可能な場合もあります。

 

Q5: 種々結晶化の方法をご紹介頂きましたが,それぞれの方法において,結晶核発生や結晶成長の度合いをある程度予測することは可能でしょうか?

A: 結晶成長の度合いなどの予測は、試料によるため難しいと考えられます。ご自身の環境で結晶化を行い、傾向などを読んでいただければと思います。

 

Q6: 試料凍結?時の低温ガス流とは、実際にどのようなガスでしょうか。水は結晶の氷ではなくアモルファス化とのこと、超急速冷却と認識して良いのでしょうか。

A: 試料凍結の際のガスは低温の窒素ガスを使用しています。また、急速凍結をした場合は水がアモルファス化するという認識で間違いありません。凍結速度が遅いと結晶の氷ができてアイスリングとして検出され、バックグラウンドが高くなってしまいます。

 

Q7: 室温で結晶測定した時と、低温で結晶測定したときは同じ構造が測定できていると考えて良いのでしょうか。

A: 結晶の性質によりますが、おおむね同じ構造が測定できていると考えてよいです。ただし、特に無機結晶などでは温度によって結晶相転移が起こる試料もありますので、事前に熱分析によって相転移の有無を調べておくなど、注意が必要です。

 

Q8: MiteGen製品はリガクで取扱はありますか?

A: 下記のページより見積もりを依頼することができます。

https://rigaku.com/ja/products/crystallography/x-ray-diffraction/mitegen

 

Q9: 微結晶ができてしまう対処法において、「蒸気拡散法」での注意点はありますか?

A: 蒸気拡散の速度が速すぎると、結晶核が一度にたくさんできてしまい、微結晶ができやすくなります。そのため、温度を下げて結晶化を行う、試料溶液を入れたチューブに蓋をし、穴を開けて拡散速度を調節するなどの方法があります。

 

Q10: 接着剤の種類として「オイル」にはどのようなものがありますか?以前、どこかでフッ素系オイルがよいと伺ったことがありますが、具体的にどのようなものかを知りたいです。

A: オイルは主に炭化水素系のオイルとフッ素系のオイルがあります。前者はCargille社のimmersion oilが代表的で、様々な粘性を持ったラインナップがあります。後者はFluorolube®が代表的で、Sigma-Aldrich社などから購入することができます。

 

Q11: 層状結晶だと、積層のせいでスクリーニングのさいに、良好な反射を得られない場合があると思います。層状結晶をできるだけ薄く切るにはどのようにしたらよろしいでしょうか。

A: ミルフィーユ状に積み重なった結晶に対して切れ味の悪いカミソリの刃でゆっくり切断する、もしくは針のようなもので突くことでミルフィーユをはがし、1層の結晶を取り出す用にしてください。

 

Q12: 結晶の大きさについて、「入射X線の直径以下」とありましたが、(感覚的な部分でも良いので)具体的にどのような大きさになりますか?

A: 現行のSynergyシリーズの場合、およそ100-150 µmが標準的です。

 

Q13: 水や空気に不安定なサンプルを測定する場合で、パラフィンオイル+ループで測定を行いたいのですが、気を付けることはありますか?(パラフィンオイル中の水など)

A: どの程度水や空気に不安定かにもよりますが、数分程度安定であるものなら、素早く結晶を拾って窒素吹付気流内に置くことで測定できる場合が多いです。パラフィンオイル中にも微量に水が含まれますので、母液から取り出して長時間置くことは避けた方がよいです。一方、それ以上不安定な試料の場合はキャピラリー封入などの対策が必要になります。

 

Q14: 不安定な結晶の場合にキャピラリーを用いる場合もあると思いますが、具体的なマウント方法を教えていただければと思います。

A: 結晶をキャピラリーに封入した後、粘土などを用いてゴニオベースあるいはリガク製マウントチップに固定します。

 

Q15: 昇華法の加熱温度は、融点と比較して何度くらいを目安にしていますか?

A: 昇華性の高い物質は融点を持たないものも多いため、昇華点を参考に決定します。

 

Q16: 聴き洩らしたかもしれませんが、結晶化のところで、濃い試料溶液にアルミで蓋をするだけで、結晶ができるのですか?

A: この方法は試料溶液から溶媒が徐々に揮発することにより、溶液を過飽和状態にし、結晶を析出させるものです。アルミホイルでフタをしているのは溶媒の揮発速度を調整するためです。

 

Q17: 共結晶の件、ご回答頂きありがとうございました。1点質問なのですが、測定に不向きな結晶であっても良いデータが得られることもあると説明されていたと思うのですが、そうなると、上手に結晶が得られなかった場合であっても一度測定して解析した方がよいのでしょうか?また、その場合、良い結晶が得られた場合と得られる解析情報との差はさほど大きくないのでしょうか?

A: 上手に結晶が得られなかった場合、本測定をして解析をするというよりはX線を当てて回折スポットを確認してみることを推奨しております。弊社装置ではスクリーニングと呼ばれる最初のステップで数十枚の回折スポットを測定し、結晶の良否を判定する機能がございます。そちらを活用いただければと思います。 質の悪い結晶と良い結晶の解析情報の差については、データの質が悪すぎる場合を除いて格子定数など大きく変わらないと思われます。

 

Q18: 結晶マウントツールとして、まち針より先端が細くて、手軽に入手可能なピンをご存じないでしょうか

A: まち針と比べて細いもので鍼治療の針があります。少しやわらかいため使用の際にはご注意ください。

 

Q19: 何度も条件検討をしたうえで、質が悪い結晶しか得られない場合、どのような測定条件に気を付ければ、構造を解くことができるでしょうか。

A: 質が悪い結晶の中でもできるだけ高角まで回折スポットが得られるような結晶を探すことが大事です。測定条件については、長い露光時間で十分な強度をとることが大事です。

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