概要:
単結晶X線構造解析でお悩みのことはございませんか?単結晶X線構造解析の基礎から応用までを学べるWebinarをご用意いたしました。
第1回では単結晶X線構造解析の原理や簡単な手順、歴史についてご紹介します。 「単結晶X線構造解析を始めるにあたって原理や基礎について学びたい!、もう一度学びなおしたい!」という方におすすめの回になっています。
Q&A:
Q1: X線構造解析によるキラル化合物の絶対配置決定にはハロゲンや金属のような重原子が分子の近傍にあることが必要と聞いたことがあるのですが、軽分子でもキラル化合物の構造決定はできるのでしょうか
A: Cu線源を使用すれば、C,H,N,Oなどの軽元素のみからなる化合物の絶対配置決定も可能です。しかし、ハロゲンや金属などの重原子がある場合と比べて十分な測定枚数(Redundancy)と測定強度を得る必要があります。このように十分な測定をすることでFlackパラメーターの値が下がりやすくなります。
Q2: 位相問題とはなんですか?
A: X線回折測定を行うと回折X線の強度が得られます。しかし、位相つまり原子の位置に関する情報を得ることができません。これを位相問題といいます。現在では低分子化合物の位相決定に直接法が使用され、蛋白質の位相決定にはSADや分子置換法が用いられています。
Q3: X線構造解析装置Synergy-Rなどの装置値段の相場観を教えてほしいです。
A: ホームページの専門家に相談する、からご質問ください。
Q4: 複数の化合物で形成された結晶(共結晶)の構造を解析したい場合、単結晶を調製する際、結晶の大きさ等注意することはありますか?
A: 共結晶の際、特別サイズに注意する点はありません。通常の結晶を測定する際と同様に測定、解析を行ってください。
Q5: 有機結晶の解析について、分子量はどのくらいまで解析可能なのでしょうか、成功率はどのくらいでしょうか。
A: 分子量に関しては、巨大な蛋白質の構造解析例があることからもわかるように、基本的に上限はありません。ただし、分子量が大きくなるほど結晶化は難しくなる傾向にあります。質の良い結晶さえできてしまえば、測定解析自体の成功率は100%に近いといえますので、試行錯誤によりうまく質の良い結晶を作れるかどうかがカギになります。
Q6: 原子振動が抑えられた低温状態で測定する必要があるのでしょうか
A: 低温での測定により、原子振動が抑えられ、より強い回折強度が得られます。また、分子運動を抑えることでディスオーダーなどの不規則構造を抑制することができます。さらに、X線による結晶のダメージを軽減することができます。
Q7: 回折強度と電子密度分布がフーリエ変換の関係とお伺いしました。これを数式的な理解よりも、もう少し直感的に理解することはできますでしょうか。 物理的なイメージの説明が可能でしたらお伺いしたいです。
A: たとえば、水を張ったプールの中に石を落とすと、波紋が広がります。たくさんの石を一度に落とした場合、波紋同士が干渉して強め合ったり弱め合ったりします。強め合った波(回折X線)だけが観測され、その波の大きさ(回折強度)は石を落とした場所(原子座標)と石の大きさ(電子密度)で決まります。逆に、強め合った波の大きさ(回折強度)の情報を観測し集めれば、石が落ちた場所(原子座標)と石の大きさ(電子密度)を全て計算で割り出すことができます。ここで用いる計算が逆フーリエ変換にあたります。
Q8: X線を照射により、結晶が壊れたり、化合物が壊れたりすると測定ができないと思うのですが、そのような事例は少ないでしょうか。
A: X線照射による結晶の損傷は十分に起こりうる問題であり、有機結晶や蛋白質結晶に起こりやすい傾向があります。結晶の損傷が進むにつれ高角側の回折スポットが失われていきます。その際には低温で測定する、結晶を大きくする、吸収の小さいMo線源を使用する、結晶が壊れる前にスピーディーに測定し終えるなどの選択肢があります。
Q9: 結晶が小さいほど結晶性がいいように感じるのですが、結晶の大きさと結晶性はトレードオフではないのでしょうか
A: 結晶にもよりますが、トレードオフになっている傾向がみられるケースは多いです。例として結晶が成長する際に割れが生じたり、双晶になったりなど、結晶性が低下することがあります。そのような場合、大きな結晶から質の良い部分だけを切り出して測定すると、データの質が向上する場合があります。
Q10: 線源の種類にCuやMoがあると聞いたのですが、どのように使い分けたらいいのでしょうか?
A: 重原子を含む無機結晶や有機金属結晶などにおいてX線の吸収が大きい時にMo線源を使用します。これはMo線源がCu線源よりも波長が短く、エネルギーが大きく吸収されにくいためです。有機物の絶対構造決定、微小結晶、タンパク質測定の際にCu線源を使用します。絶対構造決定においてCHなどの軽元素からなる化合物でも異常分散効果を得られること、強度が大きく微小結晶からより強い回折強度を得られること、タンパク質のような格子が大きな結晶でも回折スポットの間隔が広がることが理由として挙げられます。
Q11: 小さい結晶での回折実験が可能となったとおっしゃっていましたが, 現在x線で大きい結晶で行うメリットはあるのでしょうか
A: 大きい結晶を用いることで、短い露光時間で強い回折強度のスポットが得られるため、短時間で良い質のデータが測定しやすくなります。しかし、重原子を含み吸収係数の大きい結晶の場合、大きな結晶ではX線の吸収が大きくなってしまい、データの質に悪影響を与える可能性があります。
Q12: -50℃と-150℃での測定ではどの程度の差が出ますでしょうか
A: 原子の熱振動の影響の大きさ(温度因子)は、低温範囲では絶対温度におおむね比例します。したがって、-50 ℃ (223 K)と-150 ℃ (123 K)では、温度因子の大きさがおおむね2倍程度異なることになります。
Q13: 結晶化度が高い試料が得られない場合に、最低でもどの程度の結晶化度が必要となりますか?
A: 結晶化度は、バルク試料における結晶粒(結晶性領域)と非結晶粒(非結晶性領域)の割合のことを表しています。もし、試料が部分的に結晶になり、非結晶部分との混合物になってしまう場合は、結晶になった部分だけを切り出して測定してみてください。分解能0.83Åまでの十分な回折が得られれば、単結晶構造解析に適しているといえます。
Q14: ディスオーダーなどの構造解析は、SHELX等のプログラムによりかなり多くのコード・パターンがあると思いますが、回折強度から結晶モデルを得るまでの流れを一通りできるようになるまで、どれくらいの期間が必要になりますか。
A: ディスオーダーを持たない構造であれば、自動構造解析によって初心者でもすぐに構造決定に利用できるようになります。一方、ディスオーダーなどの解析についてはそういった解析事例に遭遇して実際に体験しないことにはできるようにならないと思います。私の経験になりますが、CCDCデータベースに登録されている構造の中からディスオーダーを持つ構造のCIFファイルをダウンロードして練習をしました。これを3か月ほど行って一通りできるようになりました。
Q15: 試料の最小の大きさはどの程度が必要でしょうか。また、測定でX線が透過可能なおおよその厚みはどの程度でしょうか。水素の位置まで解析可能でしょうか。 お手数をおかけ致します。
A: 弊社の最高性能の機種を用いた場合、試料の最小の大きさは1 µm程度です。ただし、装置や結晶の質にもよりますため、現行のSynergyシリーズでは、Synergy-Sの場合50-100 µm程度、Synergy-Rの場合30-50 µm程度のサイズがあれば安心して測定していただけると思います。透過可能な厚みに関しては結晶を構成する原子と使用するX線源にもよりますが、有機結晶であれば1 mmほどでも透過可能です。水素の位置に関しては、構造のジオメトリーや残渣電子密度からどこの原子に水素が結合するかを判別することは可能です。しかし、水素原子と親原子の距離についてはX線では正確に決めることは困難であるため、通常は計算に基づいた位置に水素を付加します。水素の位置を正確に決めるためには、中性子を用いた回折測定を行う必要があります。
Q16: twinについて、merohedral twinとnon-merohedral twinそれぞれに、ソフトウェアごとの得意不得意があると聞いたことがあるのですが、Crystal Alis proはどちらが得意等あるのでしょうか
A: non-merohedral twinに関しては、CrysAlisProに反射を分離する機能を搭載しておりますので、非常に有効です。一方、merohedral twinに関しては、データ処理の際に特別な処理を行う必要はありませんので、CrysAlisProを使用しているかどうかはあまり影響がありません。
