医薬品分析シリーズ #2. 医薬品の熱分析入門:基礎から応用まで
概要:
熱分析は、医薬品分野において原薬の形態評価や品質管理に欠かせない手法です。特に示差走査熱量測定(DSC)や熱重量測定(TG)は、日本薬局方の一般試験法として収載されており、幅広く利用されています。しかし、熱分析を初めて扱う方にとっては、目的に応じた装置や測定条件の選択が難しいこともあります。 このウェビナーでは、初心者の方々に向けて、具体的な事例を交えながら、目的に応じた装置や測定条件の選び方をわかりやすく解説します。これから熱分析を始める方々にとって、実践的で役立つ情報をお届けしますので、ぜひご参加ください!
このセミナーで学べること
・医薬品分析における熱分析の役割
・DSCの基礎
・TGの基礎
こんな方におすすめ!
・熱分析装置をお持ちでも、使用方法に自信のない方
・これから医薬品の熱分析を始められる方
Q&A:
Q1: 標準的な測定条件を教えてください。例えばTG-DTAの場合、昇温速度や雰囲気はどういった条件を設定しますか。
A: TG-DTAの場合、昇温速度は5~20℃/minで実施することが多いです。雰囲気は見たい反応により異なります。酸素と反応が見たいのであれば空気をフローしますし、試料の分解が見たいのであれば、窒素やアルゴンといった不活性雰囲気を利用します。
Q2: Part11対応はどうなっていますか?
A: 弊社ではVullios SureDIという測定及び解析システムが用意されており、これが21 CFR Part11に準拠しています。
Q3: DSCでの融解熱測定におけるピーク形状の意味について教えてください。測定した結果、ピークがきれいな対称でなく、ピークの立ち上がりや終わりに肩ができる場合には、どんなことが考えられますか?
A: 測定結果に再現性があるとすれば、複数の結晶形の存在、再現性がなければ、サンプルと容器底面の接触状態や融解時の形状変化による可能性が考えられます。 heating-cooling 測定を行い、cooling過程で複数の結晶化発熱ピークが現れれば、複数の結晶形の存在する可能性があります。
Q4: 結晶化度100%、0%の物質には例えばどんなものがありますか?
A: 金属固体であれば100%結晶性と考えられます。液体であれば結晶性ではないので、結晶化度0です。 医薬品の原薬として用いられる物質に関しては、例えば丁寧な晶析などで得られた結晶(単結晶構造解析に使用できるような結晶)は結晶化度100%とみなせる状態だと思います。一方、Taylorらが提案した分類方法の分類IIIに属する物質(DSC測定の冷却・再昇温過程において結晶化が観察されない物質)は、完全に熔融そして急冷した直後の状態では結晶化度0%とみなせると思います。
参考文献:Baird, J. A. | Van Eerdenbrugh, B. | Taylor, L. S.
A Classification System to Assess the Crystallization Tendency of Organic Molecules from Undercooled Melts.
Journal of Pharmaceutical Sciences 2010, 99 (9), 3787–3806.
https://doi.org/10.1002/jps.22197.
Q5: 本日のご発表の資料を頂くことができますでしょうか
A: 講義動画のオンデマンド配信をスタートしました。どなたでも制限なくご覧いただくことができますのでご活用ください。なお動画の公開に伴い、講義スライドのPDF等資料のご提供はございません事をご容赦下さい
Q6: 医薬品分析でTGやDSCを用いる場合、併用されることが多いのでしょうか。若しくはどちらか片方でも十分なのでしょうか。
A: サンプルのどのような挙動を目的にするかにより、装置を選択する必要があります。脱水・脱溶媒など重量変化を伴う挙動が目的ならば、TG-DTAが、ガラス転移・融解・転移など重量変化を伴わない挙動が目的ならばDSCになります。ただし後述のQ9にあるように、分解温度が不明な未知試料をDSCで測定する場合、温度範囲を決めるときにTG-DTAで予備測定をしておくとDSC装置の損傷を予防できます。
Q7: 聞き逃しだと思うのですが、DTAの反応温度を読む際に、外挿開始温度と外挿終了温度を読むことがあるとのことでしたが、一般的には外挿開始温度を読むということで合ってますか?
A: 例えば、融解のような場合、昇温に伴い最初に現れる温度という意味で、外挿開始温度を読み取るのが一般的です。また、試料量・昇温速度などの測定条件による依存性が最も小さい温度は外挿開始温度になります。
Q8: TG-DTA-MSにて、窒素雰囲気下で分解ガスの物質をMSで定性したいのですが、試料分解中にm/z28が大きすぎて他の物質が見えてこないのか、本当に何の物質も出てきていなのかよく分からないデータが出てきているのですが、He雰囲気下に変えると変化はありますでしょうか。
A: TG-MS測定で窒素雰囲気で測定している場合、窒素由来のm/z28の非常に大きなシグナルが観測されます。その他にm/z14(N+)や42(N3+)のシグナルもあります。これらのシグナルと目的ガスのシグナルが重複する場合は目的ガスのシグナルが隠れてしまうことがありますが、重複しないのであれば、基本的には目的ガスのシグナルは検出できると思います。 ただし窒素雰囲気での質量分析測定はHe雰囲気よりも検出感度が劣ります。現状、目的ガスのシグナルが見えていないのは感度が不足しているためだとすると、He雰囲気に変更することで目的ガスが検出できる可能性もあります。
Q9: DSC測定で、分解反応や燃焼の測定は行わないとの説明がありましたが、融点を測定する時Max温度はどのように設定するべきでしょうか。TGAなどで分解挙動を見た上で、重量減少何%なら許容か悩ましい時があります。一概には言えないと思いますが、目安にできる数値などがあったら教えて頂きたいです。
A: DSC装置で分解反応(燃焼)を測定しないということの意味は、分解ガスと装置センサー部等の接触による劣化・損傷を防ぐという意味です。この状況は発生ガスと装置材料との反応性に依存するので、定量的な議論は困難ですが、試料量10mgを仮定した場合、減量率が1%で100μgとなるので、この程度の発生ガスは許容されるのではないかと思われます。
Q10: ガラス転移が見られない場合、結晶化度が100%といえるのですか?
A: ガラス転移は非晶質固体状態に起因する挙動なので100%結晶性であれば、ガラス転移は現れないことになります。 ただ現実的には、ガラス転移が無いということを熱分析データで実証することは困難と考えます。今回のウェビナーでDSCでの結晶化度の算出方法を紹介しましたが、実際にはある試料を結晶化度100%や0%と見なして、それと相対比較することで目的試料の結晶化度を算出することになると思います。
Q11: 消防法耐圧PANで発熱確認する際に、200℃前後でピークが出る場合があります。何かがSUSと反応しているのでしょうか?
A: 発熱ピークがどういう反応に起因するかという問題だと思いますが、TG-DTA 装置があるようでしたら、例えば、SUS耐圧容器をふた無しで測定し、さらにAl製容器ないしはAl2O3製容器で同様に測定してみて、Al製容器ないしはAl2O3製容器で発熱ピークが現れなければSUSとの反応性が疑われることになります。
