小惑星リュウグウを測る ― 地球外物質分析への古くて新しいアプローチ

概要:
2020年末、小惑星リュウグウから地球へと届けられた5.4gの試料。人類が初めて手にする試料の解析に内外の研究者数100人が取り組みました。分析用に配布された極微量の試料から最大の成果を得る挑戦は1年にわたって繰り広げられました。

本Webinarでは、蛍光X線分析と熱分析を用いてリュウグウ試料に迫ったリガクの技術とその成果、測定現場で直面した課題と解決のプロセスを、当時の担当者自らが語ります。真空システムの開発、炭素・酸素・水素の定量精度を高める工夫など、機器メーカーとしての創意が凝縮された実例です。太陽系の始まりに関わるこの分析の舞台裏を通じて、リガクの技術力と科学への貢献をぜひご覧ください。

このセミナーで学べること

  • 地球外試料分析におけるXRF・TG-MS分析の基礎と応用
  • リュウグウ試料分析に求められた技術的工夫と対処法
  • 微量・非破壊分析を実現する真空システムと測定条件の最適化

こんな方におすすめ!

  • 宇宙科学・地球外物質分析に興味のある研究者・技術者
  • XRFやTG-MSを用いた分析に携わっている方
  • 少量試料や未知試料の分析に課題を感じている方

Q&A:

Q 1 : 蛍光X線分析で試料が変質することはないのでしょうか。

A: すべての測定条件で一次X線フィルタを使用してX線管からの熱の影響を低減する配慮をしています

 

Q 2 : 標準試料を用意して、FP法を選択した理由を教えてください

A: 試料の含有率範囲が不明であることが前提なので検量線法を選択することは困難でした.また,検量線法は測定試料と標準試料の品種が同じであることが原則になります.リュウグウ試料は珪酸塩鉱物からなりますが隕石組成の標準試料は存在せず想定される含有率範囲をカバーするには珪酸塩以外の異品種の物質を標準試料に用いるしかないという事情もFP法を選択した理由です.

 

Q 3 : リュウグウの空隙率50-60%はどのように分かりましたのでしょうか。

A: 天体までの距離がわかると質量が求められるそうでこの質量と天体のサイズから求まる体積とから密度を算出します.

 

Q 4 : 蛍光X線分析では測定時間はどれくらいかけられたのでしょうか。スペクトルは見せていただけますか。

A: 測定時間は30分ほどです。こちらがリュウグウ試料のスペクトルチャート(元素範囲:C~U)です。

20251009_XRF

 

Q 5 : 軽元素を測定するとき、膜にベリリウムを使う方法は採用されないのですか。

A: コストや取り扱いの点で難しいと考えます.

 

Q 6 : 今回の分析結果から新たに得られた知見があれば、教えてください。

A: 酸素の含有量がCIコンドライトの既存データと比較して少ないことがわかりました.リュウグウ試料の全金属元素を酸化させても酸素は余るのでこの余剰分は水の量を表します.これは水の量が少ないというTG-MSの結果と整合的でした.

 

Q 7 : プライマスⅣを使用しています。既存の装置でも、リュウグウ回収物のように全回収可能でしょうか?

A: Na以上の元素分析にはなりますが,フィルムを張った容器に試料を入れて分析するルースパウダー法で回収が可能です.

 

Q 8 : TG-MSへの導入前のサンプル準備はどういう環境でされたのでしょうか?大気中で行ったのでしょうか?

A: はい、TGMS導入前のサンプリングは大気中で行いました。

 

Q 9 : 3kWで測定時間が長いと試料が加熱されてしまいませんか。

A: 質問1にもありますようにすべての測定条件に一次X線フィルタを使用することで熱の影響に配慮しています.

 

Q 10 : リュウグウの資料を分析にはXRFを使った分析が最適だったのでしょうか。ご教示頂けますと幸いです。

A: 元素分析方法はどの方法でも得意不得意な元素や試料があります.地球外物質の分析で一般的なICP-MS分析を補完し,クロスチェックする意味だけでなく分析経験のない地球外物質分析であるリュウグウ試料の分析において不測の事態に備えるという点においてもXRFが選択されたことは適していたと考えます.

 

Q 11 : 長時間かけて真空引きを行う装置は、一般的な機器に使えるようになりませんか。

A: ご要望があれば検討したいと思います.

 

Q 12 : 熱分析で測定試料が少ないと測定精度に課題があるのではないでしょうか。

A: おっしゃる通り、一般的には測定試料が少ない場合、試料のばらつきや測定誤差の影響を受けやすくなります。そのため試料に余裕がある場合は試料量を増やしたり測定回数を増やすことをお勧めします。

 

Q 13-1 : 熱分析で,リュウグウ試料と隕石試料で総表面積が違いますが,測定結果への影響はないのでしょうか。

A: リュウグウ試料と隕石試料では総表面積に違いがありますが、今回の熱分析結果に対してはそれほど大きな影響はなかったと判断しています。 元々の試料量が限られていたため、表面積の違いによる影響を検証することは出来ませんでした。

 

Q 13-2 : 熱分析中のカメラ観察で,試料が動くようなことありましたでしょうか。

A: 熱分析中に試料がわずかに動く様子がカメラ画像に捉えられていました。ガスが発生した際に試料が動いたと思われます。

 

Q 14 : リガクさんの担当ではないと思いますが、炭素は無機塩(炭酸塩等)として存在していたのでしょうか?それとも有機成分として存在していたのでしょうか?

A: リュウグウ試料中の炭素は有機炭素,無機炭素の両方が存在しています.これは堀場製作所様のEMEA-Stepによる分析で明らかになりました.

 

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