高分子の応力測定にご興味のある方やお困りの方、ぜひお集まりください!
近年、自動車産業を主に省エネや低環境負荷を目的として高分子の軽量化材料としての利用が進んでおり、高分子の内部応力測定の需要も高まっています。一方で高分子の応力測定の手順や解析方法に関する公知の情報は限られていることから、「どのような結果が得られるのか」、「得られた結果をどのように判断したらよいのか」などのご相談が多く寄せられております。
今回ご紹介するX線応力測定は、金属やセラミックスの内部応力を非破壊で定量的に評価する手法として知られていますが、高分子に対しても適用できます。
本ウェビナーでは、X線応力測定の原理と基礎に加え、結晶性高分子の測定事例を交えながら、高分子のX線応力測定を高精度に行うためのポイントをご紹介します。
このセミナーで学べること
・X線応力測定の原理と基礎、高分子を測定する際の注意点など
・高分子のX線応力測定方法、良好な結果を得るためのポイント
こんな方におすすめ!
・高分子の応力測定(疲労強度評価)にご興味ある方
・高分子の応力測定経験はあるが、安定した結果が得られずお困りの方
Q&A:
Q1: X線回折による応力測定を行うために装置や測定法などハードルがある印象を受けましたが、ラマンと比較してメリットは何ですか?
A: 高分子にひずみが生じると分子振動状態も変わるため、炭素-炭素結合の振動に対する応答性が高いラマン分光(RS)も有効な応力測定手法の1つであると考えられます。 一方、X線回折(XRD)の特長を挙げると、XRDは結晶格子の大きさや形を計測できる手法であり、すなわち、結晶内部の数Å程度のひずみ(結晶格子の大きさの変化)を直接的に観測できる手法であると言えます。それゆえ、応力・ひずみの定量分析の正確度は他手法と比べてXRDは高いと考えられます。その他、RSとの違いとしては分析領域の大きさが挙げられ、RSでは数μm、XRDでは数十μmから数mmの領域内における平均的な応力状態を評価することになります。
Q2: Haloと重なったピーク(POM 100)では、ピーク位置を正確に決めることが難しくなると思います。注意点やコツがあれば教えてください。
A: おっしゃる通り、ハローとの重なりが大きくなると、正確なピーク位置の見積もりは難しくなり、ピークサーチ結果に含まれる誤差も大きくなりやすいと考えられます。 一般的によく用いられる手法としてはプロファイルフィッティングによるピーク分離が挙げられます。データ処理のポイントとしては、ベースラインを滑らかに引くこと、フィッティング時にハローの2θ位置や形状が乱れないように束縛条件を与えることなどが挙げられます。もし可能であれば、非晶質100%(または100%に近い)の試料を測定して、ハローの2θ位置や形状を定めた上で束縛条件を決められると望ましいです。
Q3: sin²Ψ線図の一点での交わりは何を示していますか?1点で交わるべき理由を教えてください。
A: 引張応力測定における2θ-sin²Ψ線図の交点は無歪状態の格子面の情報を示しています。交点(X,Y)のXはν/(1+ν)、Yは無歪回折角2θ₀に相当します。 微細粒からなる多結晶材料では、負荷が掛かった際に無歪状態から格子面が伸びたり縮んだりする結晶粒群に混ざって、中には格子面が伸び縮みしていない結晶粒も存在すると考えられます。 高分子の弾性領域内での負荷であれば、この結晶状態は荷重の大きさに依らないため、2θ-sin²Ψ線図は交点を示すことなると考えられます。
Q4: 残留応力の定量評価を行うには、直線性の指針としてR²はいくら以上の値が望ましいですか?
A: 現状、明確な基準値は設けられていません。 回帰分析に用いるデータ点数にもよりますが、一般的な統計処理の考え方に基づくと、決定係数R²が0.8以上であれば良好な直線性が得られていると判断できると思われます。
Q5: 測定可能な最大試料サイズはどの程度ですか?
A: 引張アタッチメントに載せられる試料サイズは、長さ30~80mm、幅1~15mm、厚さ0.5~4.5mmです。 一方、引張アタッチメントを使用しない場合は、厚さ24mm以下の100mm四方のようなサイズの試料も測定可能です。
Q6: 試料内部のひずみ分布を可視化することは可能ですか?
A: 実験室系のX線回折装置では基本的には試料内部のひずみ分布を可視化することはできません。 試料内部のひずみ分布を評価する場合、試料を切断した断面に対して微小なポイント状の入射X線を用いたマッピング測定を行うことが挙げられます。
Q7: 経験的に除荷過程の方が精度よく応力計測できる理由としては、どのような要因が考えられるでしょうか?
A: 高分子の粘弾性の影響が考えられます。最大荷重を掛けた後の除荷過程の方が負荷過程に比べてひずみが安定しやすいように思われます。
Q8: XRDによる応力測定は引張ユニットがないと測定できないのでしょうか?
A: X線応力測定は引張アタッチメントがなくても可能です。 引張アタッチメントを使用する目的は次の2つです。1つは、実際に評価したい高分子製品と同じ成分の試験片に対して引張試験を行い、高分子に作用する数MPa程度の応力を精度よく観測できるかの判断基準を得るためです。もう1つは、フックの法則に基づいて、観測されたひずみから応力を算出する際に用いる応力定数Kを実測するためです。 その上で、最終的に評価する必要があるのは実製品に内在する残留応力です。このときに観測される応力値の正確性・信頼性を高めるために、試験片を準備して引張試験を行うことが推奨されます。なお、測定試料1点に対する絶対値を評価するというよりは、良品と不良品など複数試料間における応力値の差異を評価するような方法が実用的であると考えられます。
Q9: 側傾法の応力測定方向は、並傾法のそれと90°直交した方向でしょうか?(試料の配置は同じ前提)
A: はい。側傾法では、並傾法と直交した方向の応力を測定します。SmartLabの場合、試料を反時計回りに90°回して並傾法により測定するのと同義です。 両手法の主な使い分けとしては、例えば歯車の歯底部を測定する場合など、試料形状に応じてX線経路の遮蔽が生じない(生じにくい)手法を選択します。 詳細については下記応力セミナーをご参照ください。
[基礎編] https://www.youtube.com/watch?v=76luG6RhCbo
[実用編] https://www.youtube.com/watch?v=3_0P6YYdcwo
Q10: 2方向からの応力測定を実施した方が良いでしょうか?
A: 試料面内における残留応力の異方性を評価する上では、直交する2方向など複数面内方向に対して測定を行う必要があります。 今回の引張応力測定では、引張方向の一方向に対してのみ測定を行いました。
Q11: 2θ-sin²ψ図で直線性が無ければ、測定不可でしょうか?
A: 2θ-sin²ψ線図が非線形性を示すような場合でも全く評価不可というわけではなく、その非線形性から試料の結晶状態や応力状態を評価することができます。 2θ-sin²ψ線図が波打つようにうねる場合は集合組織の形成、楕円状に曲がる場合は面外方向に沿った剪断応力(σ₁₃,σ₂₃)の残留、放物線状に曲がる場合はX線侵入深さ内における深さ方向に沿った応力勾配の形成などが考えられます。 詳細については下記応力セミナーをご参照ください。
[基礎編] https://www.youtube.com/watch?v=76luG6RhCbo
[実用編] https://www.youtube.com/watch?v=3_0P6YYdcwo
Q12: X線応力測定のガイドラインについて、もう少し詳しくご紹介ください。
A: 高分子応力測定小委員会(日本材料学会 X線材料強度部門委員会)では、XRDによる高分子応力測定を行うためのガイドラインの策定を目指した活動が進められています。 詳細については下記WEBサイトをご参照ください。
https://x-ray.jsms.jp/subcommittee/polymer/index.html
Q13: 傾斜法にχ(chi)アタッチメントを使用していましたが、αβアタッチメントを代わりに使用することは可能でしょうか? 引張アタッチメントを設置する都合でχアタッチメントを使用したと考えましたが、引張試験を行わない場合にはαβアタッチメントでも測定は可能でしょうか?
A: 引張応力測定に使用したSmartLabは、χφまたはαβアタッチメントを取り付けるタイプではなく、ゴニオメーター自体にχクレードルが備わっているタイプの装置になります。 χクレードルを土台として、その上に引張アタッチメントを設置しています。そのため、χφまたはαβアタッチメントは使用していません。 これは、高分子のひずみに伴う微量なピークシフト(Δ2θ~0.04°)を精度よく計測するために、より高い交差精度を有したゴニオメーターの方が測定に適していると判断した結果です。
Q14: POM以外でも結晶性プラスチックであれば応力測定は可能でしょうか?
A: はい。他研究も含めて、POM以外の結晶性高分子に対しても応力評価はすでに行われています。例えば、PE, PP, PPS, PEEKなどの高分子が挙げられます。 結晶化度や配向度などの因子の影響も考慮する必要はありますが、結晶性高分子のX線応力測定は可能であると考えられます。
