医薬品分析シリーズ #5. 粉末X線回折法を用いた非晶質医薬品分析の最前線

概要
医薬品有効成分の多くは難溶性であるため、溶解性を向上させるために非晶質製剤がよく用いられています。非晶質医薬品の評価といえば、固体NMRやFT-IRが一般的ですが、粉末X線回折でも非晶質医薬品の評価が可能であることをご存知でしょうか。

このウェビナーでは、結晶性の低い医薬品有効成分や固体分散体など非晶質医薬品に焦点を当てた粉末X線回折法の最新の評価事例をご紹介します。医薬品分析に携わる皆様にとって、実践的かつ最先端の内容となりますので、ぜひご覧ください。

このセミナーで学べること
 ・簡便・高精度・スタンダードレスな結晶化度の算出方法
 ・固体分散体の評価事例

こんな方におすすめ!
 ・非晶質医薬品のXRDでの評価にご興味のある方
 ・製剤評価の知見を広げたい方

Q&A:

Q1: 化合物によっては強く粉砕しすぎるとピークがブロードになってしまうことがありますが、これは非晶質化と言えますでしょうか?ただ単にシャープなピークが検出されないほど(強度が出ない程)結晶粒度が小さくなってしまっているだけで、非晶質となったわけではないと考えた方がよろしいでしょうか。

A: 仰る通り、粉砕によりピークがブロードになる現象はしばしば観察されます。”ブロード”というのがどの程度なのかにもよりますが、粉砕による影響は

  1. 結晶子サイズが小さくなった
  2. 非晶質化した

の2通りが考えられます。
結晶子サイズが小さくなる場合、XRDではピークの幅の広がりとして観測されます。 一方、非晶質化する場合、下図のようなハローとして観測されます。

pharma-webinar05_01

 

Q2: 粉砕によって容易に非晶質化する試料の場合,サンプル調製の際に選択配向により特定のピークが強く出る場合もあり,正確に結晶化度を算出できない可能性があります。回避すべく何か良い方法はありますか?

A: 選択配向を有する試料の測定では、含まれる非晶質量によって配向の影響が変わってくるため、反射法での測定は難しいと考えられます。一般に、XRDでは選択配向を有する試料は透過測定を推奨します。キャピラリーでの透過測定は、キャピラリーの影響でバックグラウンドが上がってしまうことによりハローとの区別が難しくなります。そのため、フィルム透過法での測定を推奨します。フィルム透過法も同じくフィルムの影響でバックグラウンドが上がってしまう可能性はありますが、試料量を多くすることでフィルムの影響を抑えた測定が可能です。

 

Q3: 装置はUltima IV、ソフトウェアはPDXL 2.9を使用しているのですが、今回紹介されていたピーク分離法やDD法を使用することは出来ますか?

A: 今回紹介したピーク分離法はSmartLab Studio IIの最新バージョンが必要です。また、DD法はSmartLab Studio IIにて使用可能です。PDXLではいずれも対応しておりませんので、ご了承ください。

 

Q4: DD法について大変興味深かったです。DD法を実施するには現状委託するしか方法が無いのでしょうか?

A: DD法はSmartLab StudioIIで実装されている機能です。DD法のアプリケーションをいくつか公開しておりますのでぜひこちらもご覧ください。

 

 

Q5: 粉末のXRD測定において、一般的に試料を回転させながら測定した方が良いですか?その場合の回転条件は?(装置はSmartLabを使用)

A: 試料を回転させるべきかどうかは、試料の結晶子サイズから判断します。

例えば、

  1. 同じロットまたは同じ試薬瓶から取り出して測定しているのに、毎回ピークの強度比が異なる
  2. 測定データとデータベースのカードとの強度比が異なる

などの場合に、その試料には粗大粒が含まれる可能性があるため、回転させながらの測定を推奨します。 上記のような現象が見られない場合は、必ずしも回転させて測定する必要はありません。

また、回転条件は、一次元検出器をお使いの場合、60rpm(1分間に60回転)が一般的です。 もし、試料がサラサラしており、回転により試料の表面が荒れてしまう場合には、30rpm(1分間に30回転)でも問題ありません。

 

Q6: 偏光顕微鏡で偏光がある固体で、粉末XRD測定でピークが現れないのは、測定条件を変えれば、ピークが得られるようになりますか

A: 偏光顕微鏡使うと、結晶を回転させた際の明滅を利用して、その物質が結晶性を有しているかどうかの確認を簡易的に行うことが出来ますが、「明滅が生じていれば必ずしも良い結晶性を有している」とは言い切れず、最終的にはX線を照射して回折ピークが観測されるかどうかを確認する必要があります。

ピークが得られない原因として下記3つが考えられます。

  1. 粉末XRD測定時に「一般的な試料量」にて測定を実施したにも拘らず回折ピークが得られない場合は、測定対象試料は非結晶性と推察されます。また、明滅を確認したのち粉砕処理を実施している場合は、その過程で結晶性が失われている場合も考えられるため、その点も考慮する必要があります。
  2. 適切な結晶子サイズよりも大きな結晶が得られた場合、回折ピークが得られない場合があります。その場合は、結晶性が失われない程度に試料を粉砕することでピークを得ることができます。
  3. 偏光顕微鏡で確認した際、結晶外形が強い配向を生じそうな形状をしていた場合(薄い板状等)は、反射法では適切な回折線を得られない可能性があります。その場合は、圧力をかけずに試料調整し、透過法で測定することで配向の影響を抑えることができます。

 

Q7: 非晶質試料の保存安定性を見る時、粉末試料が固くなる場合があります。この場合、試料を粉砕してから測定するべきでしょうか?何か良い方法はありますか?試料を粉砕することによる結晶化を考えると躊躇してしまいます。

A: 集中法での測定の場合、試料が固くなる際に試料の表面が平らである場合には問題ありませんが、試料が反ってしまう場合は試料位置が変化してしまうためピーク位置がシフトしてしまう可能性があります。 そのような場合には、平行ビーム法での測定を推奨します。平行ビーム法での測定では、試料表面が沿っていてもピークシフトすることなく測定することができます。

pharma-webinar05_02

 

お問合せ

製品選びから据付後の技術サービスまで、何でもお気軽にお問合せください。