携帯型ラマン分光計によるポリソルベートの無菌同定
はじめに
ポリソルベートは、食品、化粧品、医薬品、バイオ医薬品など様々な産業で使用されており、特に非経口薬の製造や細胞培養で使われています。業界の規制や品質基準により、製造前に受入原料を同定することが推奨されています。ポリソルベートは光や空気に反応するため、通常、厚みのある褐色瓶に入っています。そのため、サンプリングのために容器を開けると、これらの物質の無菌性や品質が損なわれる可能性があり、同定作業が難しくなっています。携帯型ラマン分光計では、サンプリングや前処理なしでこれらの物質を同定することが可能です。
- Maintain sterility
- Avoid contamination
- Prevent material degradation
サンプルからの妨害要素を最小限に抑え、効率を最大限に
厚い有色の外装を通して原料のラマン分析を行うと、一般的に蛍光の干渉が見られます。785 nm 励起の携帯型分析装置と、蛍光の干渉を低減する1064 nm 励起レーザー搭載のProgeny を用いて、3 社のポリソルベート 20 およびポリソルベート 80 を元の褐色瓶に入ったまま分析し、同定・識別できるかどうかを調べる実行可能性調査が行われました。図1は、1本のボトルを785 nmの分析装置で分析した場合と、Progenyで分析し高品質のスペクトルを得た場合の蛍光の干渉を示したものです。図2は、元の褐色瓶に入った3つすべてのサンプルから得られたスペクトルです。ポリソルベート20とポリソルベート80は異なるラマンスペクトルを示しますが、顕著な違いは、ポリソルベート80の1650 cm-1にモノオレイン酸基を示すピークが見られることです。Progenyが物質を識別できるかどうかを判断するために、相関アルゴリズムを用いて、ポリソルベートのその後の測定値をライブラリーのスペクトルと比較しました。
図3は、これらの測定値のヒットクオリティーインデックス(HQI)で示す選択性のマトリクスです。これは、ポリソルベート20がポリソルベート80と識別できることを示しています。
Figure 1. Polysorbate 20 from JT Baker in 200 ml amber bottle 785 nm vs. 1064 nm.図1. ポリソルベート20(JT Baker、200 ml褐色瓶)の785 nmと1064 nm
Figure 2. 1064 nm excitation data for polysorbate 20 from JT Baker (200 ml amber bottle), polysorbate 80 from Croda (50 g amber bottle) and NOF (100 g amber bottle).図2. ポリソルベート20(JT Baker、200 ml褐色瓶)、 ポリソルベート80(Croda、50 g褐色瓶)およびポリソルベート80(NOF、100 g褐色瓶)の1064 nm励起スペクトル
Material | Polysorbate 20, JT Baker | Polysorbate 80, Croda | Polysorbate 80, NOF |
Polysorbate 20, JT Baker | 0.99 | 0.93 | 0.96 |
Polysorbate 80, Croda | 0.92 | 0.99 | 0.98 |
Polysorbate 80, NOF | 0.96 | 0.99 | 0.99 |
Figure 3. HQI selectivity matrix for polysorbates. Average HQI values are from 15 measurements on two different days. Standard deviations were less than 0.01 for all measurements.図3. ポリソルベートの特異性評価結果(2日間で15回分析した平均値、いずれも標準偏差は0.01未満)
結論
分析の品質は、ポリソルベートが入った瓶の種類に大きく依存することがあります。Progenyでは、容器を開封して物質の品質と無菌性を損なう心配なく、迅速に検証結果が得られるため、褐色瓶に入ったポリソルベートの同定が可能です。
