ラマン分光法は、非破壊・迅速・現場対応が可能な分析技術として、製薬業界で広く活用されています。特に携帯型ラマン分光計は、原材料の受入検査や現場での品質確認において重要な役割を果たしています。しかし、実際の現場では「スペクトルが見えない」「測定できない」という問題が発生することがあります。その最大の要因について紹介します。
ラマン分光法を阻害する要因:蛍光、りん光、その他の発光 ― 蛍光が最も厄介
ラマン分光法を阻害する要因はいくつかあります。前回のブログでは、赤外分光法とラマン分光法のしくみの違いを説明しました。赤外分光法は吸収、ラマン分光法は散乱を検出する分析手法です。吸収や散乱以外にも、入射光が物質に当たると、こちらの図のように蛍光、りん光、反射といった様々な現象が起こります。蛍光は、その中で最も分析を阻害します。蛍光が強い試料では、ラマン信号が埋もれることにより、分析に支障が出ます。
蛍光は、分子が光を吸収して励起状態になり、その余剰エネルギーを光として再放出する現象です。わかりやすく説明すると、分子が光を受けて一時的に“エネルギーが高い状態”になり、その状態は長く続かないため、そのエネルギーを光として外に出す現象です。ラマン散乱は非常に弱いため、蛍光が発生するとスペクトル全体が“光のノイズ”で覆われます。
これらは、励起レーザーとして785nmの波長を選択した場合には蛍光が強く出るため、測定が困難になることがあります。
ラマン分光計には、主に以下の励起波長があります:
蛍光は、短波長の光で誘起されやすい性質があります。1064nmは長波長の近赤外光であり、蛍光を誘起しにくいため、ラマン信号がクリアに得られます。
結果として、蛍光干渉が強い試料でも、1064nmなら数秒で安定したスペクトルが取得可能です。
セルロース系添加剤は種類が多く、ラマンスペクトルの形状が類似しているものもあるため、携帯型ラマン分光計の同定能力が試されます。785nm以下の波長での励起では、蛍光バックグラウンドを生じるものが多いため、1064nm励起による確認試験がより有効となります。
蛍光はラマン分光法の最大の障害となります。蛍光を発しやすい原料の特徴は以下のとおりです。以下のような特徴を持つ原料の場合は、1064nmの励起波長を使用することをお勧めします。